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プルルルルル、
と着信音が誠也のポケットから鳴った。
誠也はモテるし、女の子からかな。
一向に出ようとしない。
「ねぇ、電話だよ。」
「出る気分じゃない。」
「んなこと言ってないで出なよ。」
「はいはい。」
面倒くさそうに電話にでようとする様子をじぃっと眺めていた。
「もしもし─あ、あぁはい。...いや、うん...わかった。」
─なにを...話してるのかな...
やがて通話が終わり、誠也はふぅ、と一息ついた。
「どうだった?」
「─ばぁちゃんが入院だとさ。」
「...え。」
「気にすんなよ。長くて一週間だって言ってたから。」
一見なんとも思ってないような口振りから本心を悟った。
誠也の本心に気がつくことができるのは、私だけで、私の本心に気がついてくれるのも誠也しかいない...と思いたい。
「お見舞い...行かない?」
「行きたかねぇよ。わざわざヨボヨボのババァなんかに会いたくねぇ。」
プイっとそっぽをむいた誠也は子供のようだ。
─何言ってんのよ、昔から婆ちゃんっ子だったくせに。強がんなくていいのに。
「...嘘つき。」
「はぁ?」
「嘘つかないでよ、ホントは凄く心配してるんでしょ?お見舞い行くよ!」
誠也の手をとって走った。
「お、おい、お前どこの病院行く気だよ!」
「市の総合病院。」
「バカっ!婆ちゃんが入院してんのは栃木だ!」
「ふへ?」
「栃木まで走っていく気なのか?」
ふん、と鼻をならした誠也がかぶっていたキャップを私の頭にかぶせる。
「今度、休日行こう。叶朶。」
心の底から幸せな感情がこみ上げて、体の内側からぽかぽかしてくる。
「うん!やっぱり行きたかったんだ、誠也。
安心したぁ。」
「そんなんじゃねぇよ、ただ叶朶が行きたそうだったからさ。」
「いひひ、素直じゃないねぇ。」
上を見上げると誠也は顔を真っ赤にしていた。
「は、そんなんじゃないって言ってんだろ!
はぁ~...。
─そんなことよりさ、すげーよな。」
「何が?」
「お前の名前だよ。カナタだろ?
叶えるっていう字に...なんだっけ。」
誠也が宙に「叶」と字を書く。
「朶、でしょ?
私もよくわかんないんだよねぇ。漢字、苦手だし。」
「空野 叶朶。
すげーいい名前だよな。空の彼方ってさ。」
「男の子の名前じゃん、カナタって。」
「性格も男みたいだしな。」
「うるさいわね!」
むっとした顔で見ると、
はは、と誠也は笑った。
誠也の横顔を見るとドキドキするようになったのはいつからだろうか。
「でもさ、叶朶は可愛いよ。」
「冗談はやめて。」
「─ホントだよ。」
「っ///」
「ほら...こんなに可愛い。」
誠也は時々、嘘か本当かわからないことを言う。その嘘かわからないお話が叶朶は好きだった。
ほんの一瞬でも私を幸せにしてくれるから─
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