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朝、目を覚ますとベッドが血まみれだった。空色のシーツに包まれていたはずの羽毛布団は、薄気味悪い夕焼け色を帯びている。いつも一緒に寝ているお気に入りのシロイルカのぬいぐるみが赤黒く染まっている。随分とひどい生理だなと苦笑していると、左手が妙に痛むので状況のおかしさに気がついた。
自分の両手をよく観察する。左手だけが血に染まっている。どうやら手首のあたりに何かを切りつけたような跡があった。
自覚もなく、理由もなく枕元には剃毛用のカミソリが置かれていた。
リストカット?
私が?
突然の出来事に卒倒しそうになったが、噎せ返るような酸化した鉄の臭いが喉の奥にまで絡みつき、なんとか正気を保つことができた。私はふらつく体を無理やり動かしてリビングへ向かった。
「お父さん。私、自傷行為をしてしまったみたい」
朝食を作っていた父にそう言った。父は娘の冗談だと思い、フライパンを振りながら聞き流そうとした。しかし、ふと私に目をやった瞬間、表情筋が固まった。血まみれのパジャマ姿を見て、鯉のように口をパクパクさせている。
「大丈夫か?」
すぐに駆け寄ってくれた父に、私は安堵した。同時に強い痛みが襲ってくる。そして、耐えきれずにそのまま気を失った。
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