愛を教えてくれた神は今日もとなりで愛をささやく

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「…ぅ…」 「湊人?」 湊人がうっすらと目を開けた。 「蓮菜…」 蓮菜は体温計で湊人の熱を計る。 「38.2℃…。まだ少し高いけど、危機は脱したな。あの薬が効いたんだ。ありがとう…紫苑」 「…はい」 「さて…これからどうする? ツァラオヘルを湊人の体から追い出すには…」 蓮菜が考えていると、佐野さんの奥さんが、おむすびとお味噌汁、それから湊人用にお粥を運んできた。 「ああ…ありがとう」 佐野さんは奥さんにお礼を言う。 「湊人くんは熱下がったの? さっきと違う…」 「はい…なんとか…」 「お粥食べれたら食べてね」 「ありがとうございます」 奥さんはキッチンへ戻っていった。 「木蓮様、どうぞおあがり下さい」 蓮菜はおむすびを食べた。 「湊人…食べれる?」」 「う…ん。食欲ないんだけど…」 「…少しでいいから食べた方がいいよ。湊人最近痩せたよね。ちゃんと食べれてないんでしょう?」 「…なんだか、食べたくならないんだ。無理して食べると吐いてしまうから…」 蓮菜は湊人のお粥を手に取り、湊人の口元へ持っていった。 「湊人、あーん」 「…蓮菜、やめてよ。みんないるのに恥ずかしいから」 「だって、右手使えないでしょう?」 「…ん…わかった」 湊人が口を開けると、スプーンを口に入れられる。二口ほど食べると、湊人は首を振った。 「もう、食べれない」 「…湊人、まだ少ししか…」 「だって…」 「…湊人…」 蓮菜が心配そうに見つめていると、突如湊人が口を押さえた。 「どうしたの?」 「…ごめ…吐きそ…」 蓮菜は、先程買い物で使ったスーパー袋を口元に差し出す。 「ほら、これに」 「う…ぉえ…ゲホッ…」 湊人がひとしきり吐き終わると、蓮菜は佐野さんに袋を捨ててもらった。 「ハアッ…ハアッ…」 湊人はぐったりと、布団に沈んだ。 「大丈夫?」 「…ぅ…」 湊人は苦しそうに、薄っすらと目を開け、またすぐに閉じた。 「湊人…帰ったら病院に行こうね。ああでも、ツァラオヘルを早く湊人から追い出さないと、そのためにここに来たんだった。でもな…どの方法も湊人が死ぬ危険があるなんて…。何か他に方法は…」 蓮菜が腕組みをして考え込む。 「そうですね…今のところその方法しか…」 紫苑も難しい顔をしている。 「…その方法…って?」 布団に横になったまま、湊人が薄目を開けて、口を開いた。 「湊人…大丈夫?」 「あんまり…大丈夫じゃない…」 ハアハアと苦しそうに息をする湊人の汗を拭い、蓮菜はため息をつく。 「また熱上がってきた?」 「ハア…蓮菜…苦しい…」 紫苑は一粒涙を零し、そうして生まれた花びらを蓮菜に手渡した。 「木蓮様。これを湊人さんの額に…」 受け取った花びらを湊人の額に乗せると、少しだけ表情が和らいだ。 「湊人?」 湊人が薄目を開けて見た。 「…れ…な…ハア…早く…オレの中から…悪魔を追い出して…紫苑様…悪魔を追い出す…方法って…?」 紫苑は頷いた。 「湊人さんの魂の隙間に入ったツァラオヘルを、この玉ノアベーツァーで捕らえるのですが、あなたの体に投げつけると、あなたの魂ごとヤツを捕らえることになります。あなたの魂だけをここから取り出すのが難しいのです。悪魔が入ったこの玉を開けられるのは、西洋の方の神だけらしいです。確実にあなたの肉体が死にます」 「そうですか…」 「もう一つの方法は、お祓いで湊人の体から悪魔を追い出す方法だ。でも、魂の隙間に入っているから、悪魔が苦しむと湊人も苦しむ。続けると湊人の心臓が止まり、魂が抜け出る。湊人の魂を連れ去ろうとする悪魔をそこで捕らえる。その後、蘇生させる。 だけど、悪魔をうまく捕らえられる保障はない。そのまま連れ去られることもあるかもしれないし、捕らえられたとしても、湊人を必ず蘇生できるという保障もない」 「……」 紫苑の説明、続いて蓮菜の説明に湊人は絶句した。 「そっか…オレどの道死ぬしかないんだね。でも、大丈夫だよ。死んでもまた生まれ変われるよ。蓮菜と離れるの寂しいけど、また来世で逢えるよね。たとえ悪魔に連れてかれても仕方ないよね」 蓮菜は湊人を抱きしめた。 「湊人…。私が絶対死なせない。今世では何があってもずっと一緒にいるって決めたんだ」 「蓮菜…」 「湊人の魂も肉体も両方助かる方法を探そう」 「…蓮菜…オレにはもう、時間がないよ」 「え?」 蓮菜は湊人を見た。 「…オレ、たぶん近いうちに死ぬ…」 「…湊人…」 「湊人さん」 紫苑が辛そうな視線を向ける。 「蓮菜…オレは、罰を受けるべきだと思ってる。もう一度自分に生まれ変わって、いじめっこに復讐したいなんて願った罰だって…」 「そんな罰受けなくていいんだって、今日の朝話したでしょう?」 「…ホントは…オレ…」 「湊人?」 湊人の体が震えて、涙を流した。目を擦って流れる涙を止めようとするが、止められない。 「…ふ…ぅ…っ…れ…な…。オレは…死ぬ…のも…ぅ…悪魔に…連れて…かれる…のも…こわ…い…ヒクッ…助けて…蓮菜…紫苑様…悪魔が…勝手に…オレの心…を…変えようと…してる…」 湊人の言葉に蓮菜も紫苑も驚いた。 「悪魔が、湊人の心に入りこみ、湊人の本心とは逆のことを言わせてるのか?」 「蓮菜…」 湊人は涙を流したまま、蓮菜にしがみついた。 「大丈夫だよ、湊人。私たちが絶対悪魔を追い出す」 「…蓮菜…帰ろう。オレ、帰りたい」 「湊人?」 蓮菜は紫苑へ視線を送る。 「なあ、これって本心か? それとも悪魔か?」 「いえ…私にも、わかりません」 紫苑は申し訳なさそうに言った。 「湊人? 帰ってどうするの? 湊人がもう時間がないって言ったんだよ」 「…うん。そうだね。だから悪魔に連れ去られても仕方ないかなって」 「湊人じゃない。ツァラオヘルか…」 湊人は震えて蓮菜に抱きついた。 「蓮菜。オレ、やるよ。お祓い受ける。早く悪魔をオレの中から追い出して…」 「いいの? 死ぬかもしれないんだよ」 「オレ、信じてるから。蓮菜のことも紫苑様のことも、それから佐野さんも…。悪魔を追い出して、オレを生き返らせてくれるよね?」 「うん。絶対」 蓮菜は力強く頷いた。
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