愛を教えてくれた神は今日もとなりで愛をささやく

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蓮菜は後ろを振り返る。 湊人の周りに人が集まっていた。 「おい。大丈夫か? 息してないぞ! あんた救急車呼んでくれ! あんたはAED借りてきてくれ!」 大柄のおじさんが、近所の人に指示をし、心臓マッサージを開始した。 「おい頑張れ、湊人!」 おじさんは、湊人の家の近所の人らしい。 蓮菜はその光景をずっと見ていた。 「蓮菜? 学校は?」 石田が蓮菜の服を引っ張るが、蓮菜は微動だにしない。 AEDが到着し、湊人の胸につけられる。ボタンが押され、電気ショックにより湊人の体が跳ね上がった。 まだ息を吹き返さないのか、おじさんが心臓マッサージを繰り返す。 「……」 蓮菜は違和感に頰を触る。涙で濡れていた。 「なんで?」 「蓮菜?」 「私…なんで…」 ここから動けない。 2度目の電気ショックで、湊人が息を吹き返した。 「湊人!」 おじさんが名前を呼ぶ。意識は戻らない。そこに救急車が到着し、湊人の体は運ばれていった。 『木蓮様』 突如、頭の中に声が響いた。 『紫苑?』 蓮菜も声に出さず、頭の中だけで会話する。 『木蓮様、例の神通力を増やす玉。神福珠ですが、天照様からお借りしてきました。しかも事情を話したら、天照様のお力も込めて下さいました。これで湊人さんを助けられます』 『湊人…』 蓮菜の瞳がみるみる開いた。 「あ…湊人…湊人が…。私…どうして忘れていたんだ?」 『木蓮様? 湊人さんに何かあったのですか?』 『そうだ。湊人が救急車で運ばれていった。心臓が止まって、息は吹き返してたけど…。でも…』 蓮菜は頭を抱えた。 『木蓮様。神福珠があれば木蓮様に神通力を戻せます。天照様のお墨付きですから大丈夫です。 木蓮様の魂が神さまよりになっているとはいえ、人間ですので、神社の中に入りあなたの霊力を上げる必要があります。神福珠はそこで受け渡します。今から神社に来れますか?』 『いや、時間がない。湊人の状態が心配だし…』 『それでは、その近くにある神社へ届けます。そこから一番近い神社は?』 『藤森稲荷』 『わかりました。私の神使に届けさせます』 『ああ、ありがとう』 蓮菜は近所にある藤森稲荷神社へ走って行った。 「神木さん?」 石田が首を傾げた。 藤森稲荷神社に着くと白蛇が待っていた。 稲荷神社の神である、宇迦之御魂神(うかのみたまのかみ)もいた。 「木蓮様。私は愛結神の神使、桔梗(ききょう)です。紫苑様の代わりにこれを届けにきました」 桔梗の首には、数珠がかかっていた。 「ああ、ありがとう」 「これは依り代の数珠です。人間のあなたが持てるようにと…」 「そうか」 蓮菜は数珠を手に取った。 その瞬間、体に不思議な力がみなぎる。 蓮菜は肉体から抜け出た。肉体は崩れ落ちた。 「あ、私元に戻れるよな?」 「はい。肉体は眠っているだけです」 蓮菜の魂は、女神の姿になった。煌びやかな模様の中に太陽の模様が描かれた狩衣を着て髪も長くなって、後ろで束ねている。後光が差して、蓮菜の周りがキラキラ輝いた。 「木蓮様。神々しいお姿です。紫苑様に写真を送りたいです。きっと喜びます」 「いや、そんな事してる場合じゃないだろう?」 蓮菜は自分の首にかかっている長い数珠を手にとる。 「これ、さっきの数珠?」 「はい。神福珠です。より力が出せるように多めにと…天照様が一つずつ紐に通して力を込めてくださいました」 蓮菜はふと思い出した。 「そういえば、悪魔は神の気配を感じ取ることができるんだよな? 私が近づいても逃げられるんじゃないか?」 「木蓮様の魂は厳密にいえば神ではないので大丈夫かと…。 天照様の力を魂に纏っている…借りた服を着ているような状態といえばわかりやすいですかね」 「なるほどな。桔梗、私の体守っていてくれ」 「はい」 桔梗は人型になって、蓮菜の体を持ち上げた。 「なんで、持てる?」 「天照様から、私も神福珠を借りたので、一時的にですが触れます。あなたに、神福珠の依り代の数珠を届けるのに、物に触れないと困るので」 桔梗は、一つだけの透明な玉がついた赤い紐を腕に着けていた。 「ああ…」 「あ、忘れる所でした」 桔梗は一度蓮菜を置くと、懐から透明な卵、ノアベーツァーを取り出し、蓮菜に渡した。 「これ悪魔を閉じ込める卵だな?」 「はい。天使からの伝言です。『捕らえるのが難しい場合は抹殺しても構わない』との事です」 「そっか」 「木蓮。早く湊人を助けに行ってあげなさい」 宇迦之御魂神が言う。 「はい」 蓮菜は空へ浮かび上がった。
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