愛を教えてくれた神は今日もとなりで愛をささやく

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「湊人…どこに…」 どこの病院に運ばれたのか調べるため集中すると、湊人が乗った救急車の軌跡が光となって道を作った。 「あっちか」 蓮菜は光を辿り空を飛んだ。 病院に着いても、その光は続いている。湊人の元まで案内してくれている。 光の先の病室は扉が閉まっているが、霊体なのですり抜けて中に入った。 湊人の心臓は完全に停止していた。 心電図モニターが無機質な音を出している。 医師が心臓マッサージを繰り返し、時折電気ショックを与えている。周りに看護師と湊人の母、弟がいた。 「湊人! お願い、戻って来て!」 「兄ちゃん! 頑張って!」 母と弟は涙を流しながらしきりに呼びかけていた。 「湊人」 蓮菜は湊人の肉体の横に浮かぶ湊人の魂と、その手を握っている悪魔ツァラオヘルを認識した。 「お前がツァラオヘルか?」 『神⁉︎ なぜここに?』 ツァラオヘルは蓮菜の姿に狼狽えた。瞬間移動しようとした悪魔に向かって呪文を唱えると、悪魔の体は植物のツルで捕らえられた。 蓮菜は首から数珠を外し、手に持つと空間に向かってかざし、短く呪文を唱えた。 病室内の空気が変わり、蓮菜と魂だけになった湊人と悪魔以外の時間が止まった。 『時を止めただと?』 「これで湊人の肉体の時間も止まったが、天照様からお借りした力だ。私ではずっと止めておく事ができない。さっさとお前を捕まえるとするか」 蓮菜は懐から例の卵、ノアベーツァーを取り出した。悪魔が力を入れると、ツルは弾け消滅した。 『まてよ? お前…神木蓮菜か?』 「今の私は木蓮。神様だ。お前を捕らえに来た」 ツァラオヘルは『ククッ』と笑った。 『やはりお前はただの人間じゃなかったんだな?』 「お前湊人の中にいたなら、私が元神だという話をした時聞いていただろう?」 『生憎、オレ様はこの目で見た物以外は信じないんでね。しかし、今のお前の魂は人間じゃないか?どうりで感知できなかったわけか。神の力を纏っただけのただの人間に、オレ様がやられるわけないだろう』 ツァラオヘルが湊人の手を握ったまま飛び、病室を出ようとした。湊人には意識がないのか、されるがままだ。 蓮菜は空間に向かって再び数珠をかざし、呪文を唱えた。病室内に結界が張られ、外へ出ようとした悪魔はぶつかって止まった。 『お前、やるな…』 「これでもう逃げられない」 『この力も長くは持たないんだろ?』 「……その前にお前を捕まえてやる。湊人!」 蓮菜が呼ぶと湊人の魂に意識が戻った。 「蓮菜?」 「うん」 「その格好…神様みたい。綺麗…」 「今の私は神様だよ。おいで…」 「うん」 湊人が蓮菜の元へ行こうとすると、ツァラオヘルは湊人の手を引っ張った。 「ヤダ! 離せよ!」 ちなみに魂だけになっていると、生前の怪我も関係なくなるので、湊人の右手も無事である。 悪魔が蓮菜に向けて手をかざすと、蓮菜に衝撃波が当たった。吹っ飛ばされた体は自らの施した結界にぶつかり、下へ落ちた。 「う…」 「蓮菜!」 『ククッ…。大したことないな…。だが、結界が張られていては瞬間移動もできない。そうだ。一ついい事を教えてやろうか? 神木蓮菜。お前が湊人の事を忘れていたのは、オレ様がお前の心の中の“湊人への想い”を封じ込めていたからだ。同じクラスのイケメンには、自分がお前の恋人だと思い込ませておいた』 「な…に…?」 『なかなか面白かったぞ。湊人の絶望感も今まで食べたものより最高だった』 「おまえ!」 ツァラオヘルが蓮菜へ手をかざす。蓮菜は起き上がれず、体はさらに床への結界にめり込み、押しつぶされそうになる。 「ぅぁあ!」 「蓮菜! 蓮菜を離せ!」 湊人が悪魔の術を施している手を掴むと、悪魔はニヤリと笑って、湊人を抱き寄せ、唇を奪った。 「んん!」 「湊人…」 「ぁ…やめ…ん…蓮菜の…前で…んん…」 悪魔の舌が湊人の口の中でうごめく。充分味わった後、悪魔は唇を解放した。 「ハア…ハア…蓮菜に…見られたくなかった」 湊人は泣きだした。 「湊人…」 蓮菜は悔しそうに唇を噛んだ。 『湊人。いいぞ…もっと悲しめ…嘆け。お前が絶望した分、オレ様には力がみなぎる』 悪魔が舌舐めずりする。 湊人の涙を長い舌で舐める悪魔。 「やめ…」 『絶望の味だ。もっとよこせ…』 「ふ…う…」 涙を拭おうとする湊人の手を、邪魔だとばかりに掴む。 悪魔が行使している術を、一瞬緩めた。 その隙をつき、起き上がった蓮菜は、手に巻き付けた数珠で悪魔の顔を思い切り殴った。 「蓮菜!」 湊人は復活した蓮菜に、安心した。 吹っ飛ばされたツァラオヘルは、途中でクルリと回転して止まると、蓮菜に向かい手をかざす。数珠を巻きつけた手をかざした蓮菜は、衝撃波を防いだ。 ツァラオヘルにノアベーツァーを投げつける。 悪魔は湊人を前に出した。ノアベーツァーは湊人を中に閉じ込めてしまった。 「湊人⁉︎」 そばにいたはずの湊人は、再び悪魔の手の中にいた。 先程の攻撃を防ぐのに精一杯だった蓮菜は、気づかない内に湊人を攫われていたのだ。 「そんな…」 『さてどうする? もうオレさまを捕まえられないぜ』 蓮菜は人差し指を曲げノアベーツァーを引き寄せた。 『あ…!』 悪魔が悔しそうに歯噛みする。 悪魔は天使の持ち物に触れない。触れるとそこがただれてしまうのだ。 「湊人。少し我慢してて…」 卵の中の湊人は静かに頷いた。 蓮菜は卵を懐に入れる。 「湊人は返してもらったよ」 『ふん。取り返してやるよ』 「どうやって?」 蓮菜は数珠に口づけて、呪文を唱えた。数珠はみるみるうちに刀へと姿を変えた。 『おい。オレさまを抹殺するのか?』 「捕らえられない場合は、抹殺せよとの命令なんだ」 ツァラオヘルは目を見開いた。 『クソが! あの天使ども!』 ツァラオヘルも尻尾を刀に変えた。 蓮菜の日本刀と悪魔の西洋の剣が交えた。 ツァラオヘルは尻尾をまるで手のように扱う。蓮菜は焦っていた。時間を止める術もそろそろ切れる。 『焦りが見えるぞ?』 「いや…そんなことは…」 『オレさまは、湊人とキスしてから力が溢れているぞ。まあ、その後の涙の方が絶望感が大きかったが、オレさまとのキスを見られるのが、さぞ悲しかったんだろうな…』 蓮菜はギリッと歯噛みした。 悪魔は余裕らしく、尻尾の剣をパタパタ振って遊んでいる。 「ずいぶん余裕だな?」 『オレさまがお前なぞにやられるわけがないだろう。湊人を返してもらうぞ』 悪魔は蓮菜の懐へ手を伸ばす。 「卵を触れば手がただれるんじゃないか?」 『それくらい、我慢するさ』 悪魔が卵を掴んで、取り出す。 『グッ!酷い痛みだ!』 「どうやって、中から出すんだ?」 『知らん!』 「ふっ…隙だらけだぞ」 蓮菜はツァラオヘルに刀を突き刺した。 『ぎゃあああ!』 ツァラオヘルは、断末魔と共に、塵となって消えてしまった。 「最期は随分とあっけない…」 蓮菜は悪魔が落とした卵を拾う。 「どうしたら湊人を出せる?」 湊人は蓮菜に口を突き出した。キスしてということらしい。 蓮菜は卵越しにキスをした。すると卵が割れて、湊人が出てきた。同時に元の大きさに戻る。 「湊人」 「蓮菜」 蓮菜は湊人に口付けた。 「ん…はあ…蓮菜」 「湊人…。もうすぐ時間が動き出す。体に戻って…」 「うん…」 湊人は寂しそうに蓮菜の手を握る。 湊人の魂が肉体に戻ると、その直後時間が動き出した。 「湊人くん。頑張れ」 医師が湊人の心臓マッサージを続ける。 湊人の心臓が動き出した。心電図モニターに規則的に音が鳴り始める。 「湊人」 「兄ちゃん」 母と弟は泣いて喜んだ。 蓮菜は湊人の心臓が動き出したのを見て安心した。そして病院を飛び出した。
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