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湊人が意識を取り戻したのは、それから3日後のことだった。
「湊人」
「母さん、総くん、父さんも…」
「心配したのよ。もう…」
母、美紗子は涙を拭った。
「兄ちゃん、死ぬとこだったんだよ。オレ、本気で兄ちゃんが死ぬと思ってさ…」
総一郎も泣きながら話す。
「ごめん。心配かけて…」
父が湊人の頭を撫でた。父の顔を見て湊人は驚いた。
泣きあとが見える顔は、少し疲れているようだ。
そんな顔を見た事などなかった。
「父さん。心配した?」
「…ああ」
「…もし、オレが女だったら? 心配しなかった?」
父は少し驚いた顔をして、微笑んだ。
「お前が男でも女でも、父さんにはどっちも大切な子供だよ」
湊人は目を見開いた。
前世の父も本当は自分を愛してくれていたのかも知れない。自分は愛されていないと思い込んでいただけなのかもしれない。その思いに気付いた時、湊人は無性に泣きたくなった。
「…ぅ…ふ…ぅう…ヒクッ…」
「湊人? 大丈夫?」
「う…ん…。ごめん…。ちょっと、一人にして…」
全員病室から出て行った。
「う…」
湊人は、一人でしきりに泣いた。
ーコンコン
病室の扉がノックされた。
湊人は涙を拭いて「どうぞ」と声をかけた。
「湊人?」
「蓮菜…」
「大丈夫?」
「うん」
「泣いてた?」
「…うん。オレ、もしかしたらさ…前世で家族に愛されてたのかもって思ったんだ。自分の勝手な思い込みで、誰にも愛されてないと思っちゃったのかなって…。そう思ったらなんか泣けてきた」
「そっか」
「…痛…」
「湊人?」
「これ何?」
湊人の胸にガーゼがつけてあった。
「あ、これ先生が言ってたやつかな?」
そこに家族と医師が入ってきた。
「湊人、もう平気?」
母が聞いた。
「あ、うん」
「君が意識を失っている間にICD…植込み型除細動器をつける手術をしたんだ」
「そっか」
「まだ少し手術痕が痛むかもしれない」
「うん。少し痛い」
「薬飲む?」
「ううん。大丈夫」
医師が手術痕を診て、湊人の胸に聴診器をあてた。
「大丈夫みたいだね。あと何日かしたら抜糸するよ。その後は心不全の症状が落ち着いたら退院かな。ICDをつけても、発作自体が起きないわけじゃないんだ。そこは薬を飲んで押さえるから。今までと同じように生活はできるよ。ただ、運動は禁止かな」
医師の説明に湊人は、息を吐いた。
「そっか。じゃあ学校で体育もできないんだ」
寂しそうに呟いた湊人に、蓮菜は頭を撫でた。
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