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 真琴は僕が想像していたよりもずっと、夏菜子おばさんに近づくような成長をしていた。夏菜子おばさんと同じく、それほど身長が高いわけではないけれど、胸は大きく、腰はキュッとくびれていて、足はスラリと長い。子供のころのずんぐりとした体型は、すっかり消えて無くなっていた。しっかりとした二重の目はパッチリと大きく、鼻筋はスッキリと通って、潤いのある紅い唇がやけに魅惑的だ。そして、肩甲骨(けんこうこつ)くらいまである長くて艶のある黒い髪が、真琴をより大人っぽく見せている。子供のころの姿を知っている僕としては、いま目の前にいるのが真琴だと信じることが難しいくらいだ。  真琴のあまりの綺麗さに、僕の心臓はドキドキと高鳴る。こんな女の子が恋人だったらどんなにいいことだろうと、本当に心の底から思う。とはいえ、真琴に対して恋に落ちたというわけではない。ただ、その魅力的な美しさに、男としてではなく、人間として惹かれているだけだ。それが本当に正しいのかどうかはわからないけれど、少なくとも僕はそう思っている。  僕は駅に向かってきたのと同じ道を、逆方向に家の方に向かって走る。 「何か買っておきたいものとかある? 知ってると思うけど、僕の家の周りには店なんかないから、買い物はこの辺で済ませておかないと後が大変だよ?」  僕はまっすぐ前を見つめたまま真琴に尋ねた。しばらく間を置いてから、 「特に何もない」  と、真琴は答えた。僕はその答えを聞いてから、町の中心部を走り抜けた。  それからしばらく、僕と真琴の間に会話という会話は生まれなかった。僕も自分から口を開こうとはしなかったし、真琴も自分から口を開くつもりはなさそうだった。お互いがまだその距離を測りかねているのが明らかだった。おかげで、どんよりとした曇り空の下にいるかのような重い空気で車内が包まれている。言うまでもなく、そんな状況で居心地がいいはずもない。それは、真琴の方も同じようで、落ち着かなさそうにソワソワしているのがわかる。  もしかしたら、どちらか一方が口を開けば、そこから一気に流れるように会話が始まるのかもしれない。そうすれば、この車内の重苦しい雰囲気など、一瞬にして消えてなくなるに違いない。真琴もそんなことを考えているのか、様子を伺うようにチラチラと僕の方を見る。そんなに僕の方を見るくらいなら自分から何か喋ればいいのにと、僕は心の中で思いながらも、口に出すべき言葉を必死に考える。
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