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 小一時間ほど秘密基地で過ごし、家に戻ると、子どもたちがいなくなったと大人たちが大騒動しているところだった。たしかに何も告げずに勝手に家を出ていった僕が悪いのかもしれないけれど、こっぴどく叱られた挙げ句、父からのきつい拳骨(げんこつ)を頭にもらった。おかげで僕の頭には大きなたんこぶができ、しばらくはその痛みに耐えていなければならなかった。 「あの秘密基地ってまだあるの?」  真琴が言った。 「さあ、どうだろう? 僕たちもだんだん秘密基地には行かなくなったし、あれからもう十年近く経ってるから、とっくに誰かに取り壊されてるんじゃないかな? たとえ残っていたとしても、殆ど形を留めていないと思うよ。なにせ、廃材を集めてくっつけただけの代物だからね」  実際、僕たちが秘密基地で遊んでいたのは、小学三年生のその一年間くらいだった。僕たちはだんだんとそこで遊ぶことに飽きてきたし、それよりはもっと広い野原を駆け回っている方がよほど楽しかった。 「ねえ、家に着いたら、秘密基地に行ってみない?」  真琴はまるで無邪気な少年のように瞳をキラキラと輝かせながら言う。どうせ僕にしたところで、何か予定があるわけでもないし、家の中でずっと真琴とと二人きりで過ごすより、外に出ていたほうがいくぶんマシなように思える。そういう意味では、僕に断る理由などなかった。 「いいよ、行ってみよう」  僕は再び信号を見落とすことのないように、しっかりと前を見据えながらそう答えた。  車は僕がコーラを買ったあの集落に差し掛かる。少し喉の渇きを覚えていた僕は、商店の前で車を停めた。 「何か飲み物を買おうと思うけど、真琴ちゃんも何かいる? ちなみにここを過ぎると店もなければ自動販売機もないからね」  僕がそう言うと、真琴は右手の人差指を立てて顎の辺りに当て、少し考えてから、 「コーラ」  と、短く答える。  僕は車を降りてから、自動販売機に千円札を一枚突っ込み、コーラを二本買う。そして、運転席に戻ってから、よく冷えたコーラの缶を、真琴に一つ渡した。 「ありがとう。コーラって滅多に飲まないんだけど、たまに飲むととても美味しいのよね」  真琴はそう言うと、さっそく栓を開けて、まるでビールでも飲むかのようにゴクゴクと音を鳴らしながら、コーラを喉に流し込んでゆく。僕も車を停めたまま、一口だけコーラを飲む。だけど、やはり三十分歩いた後に外で飲むコーラと、冷房の効いた車の中で飲むコーラは何かが違う。
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