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 家に着くなり、真琴は荷物を下ろすと、 「さっそく秘密基地に行ってみよう」  と切り出す。慣れない車の運転で、いささか疲れていた僕としては、少し暗い休憩したいのだが、様子を見ている限り、真琴は僕の言うことなんてきいてくれそうにない。いや、あるいは、きちんと説明すれば真琴もわかってくれるのかもしれないけれど、真琴をがっかりさせたくないという気持ちも僕の中にあった。 「じゃあ、着替えておいでよ。森の中に入るのに、その格好だと危なすぎる。できるだけ長袖のもので、下はズボンの方がいい」 「わかった。でも、どこで着替えたらいいの? このまま啓介兄ちゃんの前で服を脱いで着替えろっていうの?」  真琴は半ば揶揄(からか)うように、にやりと笑いながら僕を見る。だけど、そんなことでいちいち慌てていたら身がもたない。僕は冷静に、 「母さんが、僕の隣の部屋を真琴ちゃん用に片付けてくれてるから、そこで着替えたらいいよ。荷物もそこに置いてきたらいい」  僕はそう答えて、真琴を部屋に案内する。 「準備ができたら、僕の部屋の扉をノックして。僕も長袖の服に着替えるから」  僕は真琴にそう伝えて、自分の部屋に入った。  慣れない車の運転で想像以上に疲れているのか、ベッドを目の前にすると、急激に眠気が襲ってくる。このままベッドに横になって眠ってしまいたいと思うけれど、真琴との約束がある手前、そうするわけにもいかない。僕は、やれやれ、と思いながら、クローゼットから長袖のシャツを取り出して、Tシャツの上に羽織る。  何をしているのがわからないが、真琴はなかなか部屋にやって来ない。着替えるだけならば、もうとっくに済んでいるはずだ。女の子だし、あるいは化粧でもしているのかもしれないとも思ったが、考えてみれば、これから森に行こうというのに、わざわざ化粧なんてする必要なんてあるはずもない。単に荷物の整理をしているだけなんだろうが、ボストンバッグ一つ分の整理にしては時間がかかりすぎている。このままでは本当に僕は眠ってしまいそうだ。  僕は部屋を出て、真琴の部屋の扉をノックしたが、中から応答はない。時間を置いてもう一度ノックしてみるけれど、やはり応答はない。もしかしたら何かあったのかもしれないと思ってドアノブに手をかけたが、僕はその手を引っ込めた。もし扉を開けたときに着替え中で、真琴が服を脱いでいたりしたら大事だ。僕はもう一度ノックしてみる。それでもやはり反応はない。
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