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「真琴ちゃん?」  僕は呼びかけてみるけれど、それでもやはり反応はない。僕は意を決してドアノブを握り、ゆっくりと捻って、そっと少しだけ扉を開けて中の様子を窺う。すると、真琴は部屋の真ん中で大の字になり、すうすうと小さな寝息を立てながら眠っていた。きっと、福岡からの長旅で、真琴もすっかり疲れてしまっていたのだろう。僕は押入れの中からブランケットを取り出して、起こしてしまわないように注意深くそっとそれを真琴にかけた。  すっかり森の中の秘密基地に行くつもりになっていた僕は、急にやるべきことを失ってしまった。おまけに、真琴のことを心配しすぎたおかげで、さっきまで襲ってきていた眠気もすっかりどこへやら消えてしまっている。僕は自分の部屋に戻り、ベッドの上に寝転んで、出かける前に読んでいた小説の続きを読み始める。そのうち、再びゆっくりと睡魔が襲ってきて、僕も眠りの世界へと旅立った。  コンコンと誰かが部屋の扉をノックする音で僕は目を覚ました。慌てて飛び起きて時計を確認すると、時刻は午後六時を回っている。ベッドの上で一度大きく伸びをして、扉の方に向かおうと立ち上がるのと同時に、ゆっくりと扉が開いて、母と真琴が部屋の中に入ってきた。 「お客さんを一人にして、自分だけ寝てるなんて、まったく呆れた子ね」  母はひどく呆れた顔で僕を見ながら言う。その後ろで、真琴がニヤニヤと笑っている。本当は真琴の方が先に寝ていたんだとかなんとか、僕にも言いたいことはいろいろあったけど、そんなことを言うのも面倒なので、 「ごめん。慣れない運転でちょっと疲れちゃって」  と、僕は素直に謝った。そんな僕の謝罪をまともに聞いているのか聞いていないのか、母は何も答えずに真琴の方を向くと、 「ごめんなさいね、真琴ちゃん。せっかく来てくれたのに最初から退屈な思いをさせちゃって。啓介は気が利かない子だけど、許してあげてね」  と、頭を下げる。 「いいんですよ、おばさん。まだまだやらなきゃいけない宿題も残ってるし、これでも一応受験生ですから、遊んでばかりいるわけにもいきませんので」  真琴の言葉に、母は感心した様子で、 「あら、しっかりしてるのね。啓介、夕食が終わったら、真琴ちゃんに勉強教えてあげなさい」  と、感嘆の声を上げるのと同時に、僕に命令する。 「わかったよ。夕食が済んだらね」  僕がそう答えると、母と真琴は部屋から出ていった。僕はもう一度大きく伸びをした。
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