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 それにもかかわらず、僕は長々と高校時代の友人たちとの恥ずかしい議論まで持ち出して、いったい何をしているのだろう。僕は急激に恥ずかしくなって、顔中が火照り出すのを感じ、思わず俯いた。そんな僕を見ながら、真琴が尋ねてくる。 「ねえ、啓介兄ちゃんはこれまでにセックスしたことあるの?」 「ないよ。恋人もいたことがないのに、セックスなんてできるはずもない。それに、僕は好きでもない人とセックスしたいなんて思わない」  僕は俯いたまま、真琴の問いに答えた。そんな僕の態度に、真琴はニヤリと笑う。 「つまり、啓介兄ちゃんにとって、『好き』と『セックスしたい』は必要十分条件なんだね。早くできるといいね、セックス」  真琴が完全に揶揄っていることは、僕にもはっきりとわかる。僕は少々苛立ちながら、嫌味も込めて、 「そういう真琴ちゃんはやったことあるのかよ?」  と、訊き返す。だけど、真琴はまるで子供に注意するかのように、右手の人差し指を立てて左右に振りながら、 「女の子にそんなこと訊かないの」  と、さらりと僕の問いを躱す。  だけど、たしかに真琴の言うとおり、あまりにもデリカシーに欠ける質問だった。いくら揶揄られたからといっても、女の子にそんな質問をするべきではなかった。たとえその相手が真琴であったとしてもだ。こうしたデリカシーのなさも、僕に恋人ができない理由の一つかもしれない。僕はそう考えて、少し反省した。  僕はそれから小一時間ほど真琴の勉強を見て、自分の部屋に戻った。部屋に戻ると、時刻は午後八時を過ぎていた。窓のそとはとっくに真っ暗になっていて、いつもと同じように月と星が輝いている。  僕はベッドに横になり、読みかけの小説を開く。だけど、なぜかわからないけど落ち着かず、文章を目で追っているだけで、なかなか文章が頭の中に入ってこない。僕は何度も同じ文章を目で追い直してみるけれど、やはり結果は同じだった。どうしてこんなに落ち着かないんだろうと僕は考えてみるけれど、その理由はわからない。隣の部屋に真琴がいることを除けば、いつもの夜と変わりはない。しかも、真琴はまだ勉強を続けているのか、物音も聞こえてこないし、その存在を感じることもできない。  僕は小説を読むことを諦めて、スマートフォンを手に取り、パズルゲームを始める。だけど、やはり同じように集中することができず、平凡なミスを繰り返してなかなかステージをクリアすることができない。
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