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その頃の僕たちは、景子がそんな態度を取る理由なんて知る由もなかった。僕がその理由を知ったのは、中学二年生になってからだった。
ある日、夕食を終えてテレビを見ていると、母が寄ってきて言った。
「あなた、篠原景子ちゃんって知ってる?」
「知ってるよ」
僕はテレビの方に視線を向けたまま答えた。
「今日たまたまね、篠原さんのお母さんと話をしたんだけど、彼女、学校で上手くいってないの?」
「さあ、どうだろうね。一年生の時は同じクラスだったけど、今はクラスが違うし、よくわからないよ」
「そう。実はね、彼女、小学校でいじめられてたらしいのよ。元々はとても明るくて元気な子だったらしいんだけど、小学五年生のときから急にいじめが始まって、それから変わっちゃったらしいのよ。一年生のときはいじめられてたりしてなかった?」
「別にいじめられてたりはしてなかったと思うよ。ただ、彼女の場合、他人を寄せ付けないっていうか、こっちから歩み寄ろうとしても、自分から避けていくっていうか、そんな感じなんだよ。だから、一年生のときは隣の席だったけど、ほとんど会話も交わしたことがない。もちろん、挨拶くらいは交わしていたけどね」
「まあ、そうなの? 篠原さんのお母さん、ずいぶん心配してらっしゃってね。中学校に進学するタイミングで引っ越ししたのも、いじめのせいらしいし、でも新しい学校でもいじめられてたらどうしようって」
母はそう言うとため息を吐いた。とはいえ、僕の母が心配したところで仕方のない話だ。彼女がいじめられていようといまいと、僕の母には本質的には関係のない話だ。もっとも、仮に彼女がいじめられていて、僕がそのいじめに参加しているとなれば話は別かもしれないが。
「そんなに心配なら、明日、少しだけ様子を見てみるよ」
「あら、悪いわね。もし何もなければ、彼女のお母さんも少しは安心すると思うから」
母はそれだけ言うと、キッチンへと戻っていった。
正直言って、そのときはもう僕の景子に対する気持ちは完全に冷めてしまっていたから、わざわざ別のクラスまで行って、彼女の様子を伺うなんていうことは面倒でしかなかった。だけど、約束した以上、彼女の様子を見にいかないわけにもいかない。適当に誤魔化すことなんていくらでもできるけれど、それでもしも都合の悪いことが起きても、それはそれで面倒だ。考えているだけで面倒臭くなってきた僕は、テレビを消して自分の部屋に戻った。
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