10/10
50人が本棚に入れています
本棚に追加
/121ページ
 実際に、森は外から目で見るよりもずっと深い。僕たちが作った秘密基地は、そんな森のずっと浅いところにあったから、僕たちも森の中で迷ったりすることはなかったけれど、奥の方まで進んでいくと、本当に帰り道を見失ってしまう。実際に、昼間であっても、山菜採りに森の中に入って遭難した人は、一人や二人じゃすまない。そんな森の中に、しかも夜に入っていくなんて、僕にはとても考えられない。  だけど、真琴は不満げに頬を膨らませて言う。 「危ないのはわかってる。だけど、あそこじゃないとだめなのよ。あそこで星を眺めながらじゃないと、上手く話せそうにないのよ」 「上手く話せそうにないってどういうこと? 何か僕に話したいことがあるってこと? それなら、今ここで聞くけど?」 「だから、言ってるでしょう? あの場所で、星を眺めながらじゃないと上手く話せそうにないの。なぜだかわからないけどそうなのよ」  真琴は少し興奮気味に僕に訴える。どうするべきかと僕は考える。目の前の真琴の様子を見る限り、秘密基地に行かない限り納得しそうにない。もちろん放っておいてもいいのだろうけれど、もしも一人で森の中にでも入られたら、それこそ危険でしかない。きっと、我が家だけでなく、近所中、大騒動になるに違いない。そうなればそうなったで、ひどく面倒だ。 「わかった。行ってみよう。だけど、僕が危険だと判断したら、その時点で引き返す。それでいいかい?」  僕は諦めて、真琴にそう尋ねた。すると、ようやく真琴が首を縦に振る。 「それでいいわ。その時はちゃんと諦めるから」 「わかった。じゃあ、着替えておいで。その格好じゃ森の中に入るには危なすぎる。ちゃんと長袖に長ズボンを着てくるんだ。そうじゃないと、雑草で手も足も傷だらけになっちゃうからね」 「わかったわ」  真琴はそう言うと、僕の部屋から出て、自分の部屋へと戻っていった。やれやれ、面倒なことになった、と僕は思った。だけど、約束してしまった以上、森へ行かない訳にはいかない。適当な理由をつけて、途中で引き返してしまうのが一番いいのだろうけれど、それで本当に真琴が納得するのかもわからない。とりあえず僕は、長袖のシャツを羽織り、押し入れの中から懐中電灯を二つ取り出して、きちんと点くかどうかを確認した。幸いなのかどうなのかはわからないけれど、懐中電灯はちゃんと二つとも点いた。そして僕はベッドに腰掛けて真琴が戻ってくるのを待った。
/121ページ

最初のコメントを投稿しよう!