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13 ジェラードが見たもの
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立てた片膝の上に片手を置いて、ジェラードは木の幹にもたれかかっていた。独楽を縦に二つ積み上げたような異形の城を視界の中央に置きながら、頭に過った今までの映像を思い起こす。
野球というスポーツをやっている二人の男。無愛想な男は防具を身につけて、背の高い男が投げる豪速球をとる。背の高い男の手から放たれたボールは、無愛想な男が構える皮の手袋に魔法のように吸い込まれ、パーンと気持ちいい音と衝撃を走らせる。敵はボールをバットで打とうとするが、背の高い男が放つキレのあるボールはなかなか当たらない。それでも打たれたときには、無愛想な男が大声で指示を出し、仲間にボールを取りに行かせる。速いパス回しで、敵を翻弄する。
観衆の声援、男たちの汗と息遣い。緊張と爽快。怒りと励ましの叫び声、悔しさと喜びの絶叫。無愛想な男と背の高い男にとって、この空間こそが生きがいだった。
最後の一球。響き渡ったのは革と球がぶつかり合う快音だった。二人は雄叫びをあげ、仲間と抱き合い勝利を噛み締めた。
二人にとって、この瞬間はゴールではなく通過点だった。二人でプロになる。幼い頃からの夢だった。二人の夢は間もなく実現される。期待に満ちていた。しかし、それは阻まれた。
映像は突如切り替わり、無愛想な男と背の高い男は何もない灰色の空間に取り残される。無愛想な男は、背の高い男の姿を見て息を呑む。背の高い男の利き腕は、酷くえぐれて血だらけだった。
ジェラードはいつの間にか、無愛想な男の感情に共鳴していた。不慮の事故により夢を奪われた相棒への同情。相棒と一緒に夢を叶えたかった自分のどうしようもできない絶望。行き場のない悲しみは全身を駆け巡る。
いつも穏やかだった相棒は死んだような顔で突っ立っている。身体はやせ細り、日焼けが薄れ、笑うことを忘れた表情は色白で、まるで別人の顔と化していた。
どれだけ悩もうが、無愛想な男にとって答えは一つだった。どちらか一人ではない、二人で夢を叶えるのだと。相棒が夢を叶えられるのにどれだけの月日がかかろうが、自分はそれを待つと。無愛想な男は、ひょろ長い色白の男に向かって足を踏み出す。
しかし、灰色の背景は突然、焼き荒れる炎に変わった。ひょろ長い色白の男は、虚ろな視線を残して炎に覆い隠された。
「健人!」
無愛想な男は、ジェラードは叫んだ。炎に行く手を阻まれる。熱い、息苦しい。全身にまとわりつく、焼けるような激痛。
——お兄ちゃーん!
どこからともなく、少年の声がした。微かに犬の鳴き声も聞こえている。
ジェラードは大声を振り絞った。
「洸大! 洸大ー!」
「ジェラード、どうしたの?」
ジェラードは息を吸い切って目を見張った。目の前でゴドウィンがキョトンとしている。息を止めたまま辺りを見渡す。明るい緑の森の中。ジェラードは天を仰いで深呼吸した。
「驚かせるな、ばかやろう」
「驚かせるつもりはなかったんだけど」
ゴドウィンはジェラードの隣に腰を下ろす。ジェラードと同じように片膝を立てて、そこに両手を置く。
「ミランダったらね、面白いんだよ。疲れたって言って座ろうとしたらね、ロンの上に座っちゃって。怒ったロンに、さっきまで追いかけられてたんだよ」
ジェラードは鼻で笑った。無愛想な表情は緩んでいた。
「ミランダが仲間になってから明るくなったと思わない? 僕たち」
「なんだお前。好きなのか、ミランダのことが」
「べ、別にそんなんじゃないよ」
ゴドウィンは狼狽して立ち去ろうとする。
「悪かったな」
ジェラードはぼそっと呟いた。「助けてやれなくて」
ゴドウィンは振り返ったが、ジェラードは黙ったまま目を泳がせている。ジェラードは立ち上がると、ゴドウィンを置いてその場を離れようとした。
「いや、なんでもない」
背後で、ゴドウィンが呟くのが聞こえる。
「ジェラード、僕は君の……」
「もうロン、ごめんってばー」
ジェラードがゴドウィンのほうを振り返ったのと同時だった。ロンがジェラードの耳元をかすめながら前方へ飛ぶ。それをミランダが追いかけてきた。謝罪の意とは裏腹に、ミランダは楽しそうに笑っている。
「なになにー? ロン、まだ怒ってるのー?」
ゴドウィンは弾けるように笑って、ミランダとロンのじゃれ合い加わる。振り向いた直後の暗い表情は気のせいだったか。そもそも、ゴドウィンにそんな顔は似合わない。
ジェラードは呆れてその場を離れた。もう一度あの映像について考えようとする。しかし、ゴドウィンとミランダの笑い声が煩わしい。
ジェラードは映像を払拭すると、フッと、柔らかな笑みを浮かべた。
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