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好き同士
「火・・・みたいですね」
陽太は、やっとの思いでつぶやいた。
「うん、すごいよねー。燃えるよう・・・」
茜はあいづちを打ったが、どこか、心ここにあらずという口振りだった。
茜の顔も心も、西の空に吸い込まれていた。茜は、ちょっと足を止めて、オレンジ色の光が照り返す横顔を少しもそらさずに言った。
「私、夕暮れが一番好き。すごくきれいだし、なんだか落ち着くの、心が」
「じゃ、俺たちは、好き同士ですね!」
感極まったような陽太のセリフに、 茜は、目をパチクリさせて振り向いた。
「え?」
「あ・・・。いや、ほら、俺も、夕暮れの太陽が一番好きだから」
「そう。じゃ、同じだね」
茜は微笑むと、もう一度深く息を吸って、夕焼けを見つめた。
「・・・行きましょうか?」
「はい」
茜は、満ち足りた幸福そうな顔を西に向けたまま、ゆっくりと前進した。
そのペースに合わせて、陽太は茜の後ろについていった。
そして、夕陽を見る振りをしながら、こっそりと茜を見つめた。
この波長だ。
陽太は、胸の高鳴りが体から溢れ出すんじゃないかと思った。
先日、星や月を見た時よりも、ずっとずっと心が打ち震えている。
大好きで大好きでしかたのないものを見つめている、彼女の眼差し。
自分が追いかけてきたものが、まさにこれだ。
自分をここ、地上に連れてきたものが、今、手の届くところにいる。
しかも、生きて鼓動している。
陽太は唇を噛んで、一瞬ぎゅっと目を閉じた。
あまりに感情が高ぶって、涙が出てきそうだった。
ああ、
俺は、こんなにも、
この人に、
愛されている・・・。
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