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洋菓子店「ベアトリーチェ」(2)
「募集?」
「バイトをしたくて、来たんじゃないの?」
「バイト・・・あっ、そ、そう! アルバイト募集ってのを見て!」
陽太は、よく考えもせずに、口から出任せをしゃべっていた。
「そう。店長と約束は?」
「いや・・・してない。いきなり来ちゃったから・・・」
「じゃあ、面接の約束してから来たほうがいいよ。電話番号、そこの広告に書いてあるから」
陽太は、指差されたチラシを一枚取り上げた。
『ベアトリーチェ』
店名とおぼしき名詞が、一番上にでかでかと印刷されている。
広告には、スプリングフェアと銘打って、イチゴを使ったたくさんの菓子が紹介されていた。そして、左下の隅に、「アルバイト募集」の文字と電話番号が書かれていた。
「分かった。ありがとう、教えてくれて」
「いいえー。私と交代ってことになるね、きっと」
「え?」
「私、そろそろ自分の就職活動に専念しようと思って。代わりの人が来たらやめることになってるんだ。だから、ここでのあなたの仕事は接客よ」
「そうか。・・・あ、あと」
「なに?」
「ここ、君以外にも人が?」
女の子はホケッとしてから、ケラケラと笑い出した。
「当たり前じゃん! お菓子を焼く人がいるし、店長もいるし、その家族も住んでるもん!」
「そんなにいるのか・・・」
「面白いこと言う人ねー。アハハハハ」
陽太はその後、ケーキを三つも買って店を出た。途中、通り掛かった公園に入り、ベンチに腰掛けて、まずはシュークリームを頬張った。
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