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とびきりの良い笑顔
洋菓子店ベアトリーチェ店長の山入端昇は、七三に分けた白髪交じりの頭髪と、下がり気味の眉尻と目尻、そして、上向き加減の口角を持った五十過ぎの男である。
自宅一階の一部を店として使い、会社勤めの妻と、大学生と高校生の子供二人という家族構成。家庭は、これといった大きな問題もなく、普通程度に円満だった。
さて、事務所兼休憩室で陽太の面接をしながら、昇は思った。
女の子みたいな顔してるな。
目がやたら大きくて、肌も白い。髪はいちおう短いのだが、それでもせいぜいボーイッシュな女の子でまかり通るくらいの長さだ。
昇が陽太にニ、三質問してみると、緊張しているのか多少ぎこちない答えが返ってくる。が、人当たりは決して悪くなかった。
「かわいい顔してるねえ。女の子に間違えられるだろう?」
「え? いやあ」
陽太は昇の言葉を皮肉とは受け取らず、素直に笑ってみせた。
その表情に、昇は一瞬だったが見とれた。
実に、良い笑顔をする。
人はたいてい笑うものだが、良い笑顔をする人となると、そうそう出会えるわけではない。
陽太は、とびきりの良い笑顔の持ち主だと、昇は判断した。
「よし、採用しよう。おめでとう。よろしくお願いしますよ」
「あっ、ありがとうございます! よろしくお願いします!」
陽太は、十字型の光の粒子が一千個も弾け飛んでいきそうな、まぶしい笑顔で一礼した。
つられて、昇も笑った。陽太が心から喜んでいるのが、昇にもよく分かった。
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