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山入端宅にて(2)
「茜は、まだか?」
「もうすぐじゃねーの? なに、新しいバイトのおかた?」
照彦は階段の手すりにもたれると、チラと目だけ動かして陽太を見ながら父親に尋ねた。
陽太は、昇に紹介されるより先に、自己紹介をした。
「あっ、日輪陽太です。よろしくお願いします!」
「あっ、どうもー」
少しよそよそしく、でも、にかっと笑って、照彦はもう一度お辞儀をした。
(あの人でもないな・・・)
陽太は、少し肩を落としてかすかなため息をついた。
そんな陽太には気づかずに、昇は居間に入って、陽太に空いたソファを示した。
「掛けてくれ。お茶でも淹れよう」
「あ、おかまいな・・・」
陽太がそう言いかけた時。
「ただいまー」
澄んだ声が耳に届いて、陽太は、体がビクンと振動した。
「茜だ! おうおう、こっち、こっち!」
昇は、居間の入り口から顔を出して、帰ってきた人物に手招きをした。
「なに?」
「茜、ちょっと、例の頼みなんだ」
トントンという廊下を軽やかに進む足音が、ピタリとやんだ。
かと思うと
「そんな暇、あるわけないでしょう!」
ライオンみたいな猛り声が、ガーンと居間に飛び込んできた。
昇は、おろおろしながら続けた。
「そんな、だって、たった三日間だぞ? そのくらいの時間なら・・・」
「ないわよ! お断り!」
その人は、ダンダンと、床を割りますと言わんばかりに踏みしだいて、スッと居間のドアの前を通り過ぎた。
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