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出会う(1)
「茜っ。おいっ。考え直せんか~」
「照彦にやらせりゃいいでしょ! どうせ、放課後ブラブラしてんだから!」
「あいつは、学校があるだろ? お前なら時間の融通もきくし・・・」
「私は、一時間でも時間が惜しいの! 就職活動も卒論も・・・それに、家事もやってるでしょ!?」
「家事だったら、お母さんでもいいさ! な? 火、木、土の、二時からでいいから・・・」
「あのねえ・・・。就職は大変だから、早く準備しろって言ったのはお父さんでしょ! 気がかなり焦って・・・だから、ほっといて! もう~、黙ってて!」
「茜・・・でも、来てるんだ」
「はあ!?」
「紹介する。日輪陽太君だ」
陽太は、ドキドキしながら、そうっと昇の背後から顔を出した。
居間の隣は、台所だった。そこで、牛乳をスーパーの袋から取り出そうとしたまま、固まっている女性がいた。
芯の強さを感じさせる、つり目勝ちの大きな瞳をしていた。
反面、透明感のある肌と厚みのある唇は、奥ゆかしい印象を与えている。
緩くウエーブのかかった黒く長い髪を、耳元に後れ毛を残しながら一つに束ねていた。服は、白いブラウスの上に淡いグレーのカーディガンを羽織り、下には膝丈の水色のスカート。シンプルで、すらりとした体型によく似合う。
そんな茜の眉が、ひきつけでも起こしたように、つりあがったままピクと動いた。
昇は、決まり悪そうに茜に告げた。
「アキちゃんの代わりに、来週から入る。三日間だけ、面倒を見てくれないか?」
とたんに、茜の顔が赤く染まった。トンと引力に従って、パックの牛乳がテーブルの上に置かれる。
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