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日が落ちる
陽太は、夕陽と、茜の乗った新幹線と、どちらも見下ろせる鉄柱に立ち、風が自分の髪をそよがせるのに任せていた。
この風のように、茜の波長が陽太の体を撫でていった。
陽太の心の波も、それを感じるたびに打ち震えた。
陽太は、ポケットから一枚の紙片を取り出した。
否、紙片ではなく写真だった。
茜と腕を組んで撮った、唯一の写真だ。
それを見ながら、陽太は思った。
一度でも、言えば良かったか。
好きだと言えれば、良かったか。
でも、もうダメだ。
「・・・日が、落ちる」
もう、太陽は半分、山の後ろに隠れていた。
あと五分もしないうちに、すべて山の後ろに飲み込まれてしまうだろう。
まだ熱烈に自分に注がれる波長を全身全霊で感じながら、陽太は、茜が自分に言ってくれた言葉を思い出した。
彼女は、俺を好きだと言ってくれた。
夕暮れの太陽が、とても好きだと。
夕暮れの・・・。
しかし、それも、じき沈む。
淡い桃色が少しずつ失せて、薄い、そして徐々に濃い青へと空が変化してゆく。
走り出した新幹線。
陽太は、それがみるみるうちに遠ざかってゆくのを、最後尾が点となるまでずっと見送った。
もう、太陽はそのてっぺんしか見えない。
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