15人が本棚に入れています
本棚に追加
出会う(2)
「あのっ・・・」
陽太は、駆け出しそうになる全身を、すんでのところで押し止めた。
それから、茜の正面に歩いて進み出ると、愛想良く微笑んだ。
「俺、日輪陽太って言います。あの・・・迷惑かもしれないですけど・・・俺からもお願いします。いろいろ教えてください」
陽太は、丁寧に頭を下げた。
「え・・・ええ・・・」
茜は、穴でもあったら入りたいというように、目を泳がせて肯いた。
「本当に? ありがとう!」
陽太は、ガシッと茜の両手を握り、ブンブンと上下に振った。
茜は、陽太の勢いに圧倒されながら
「じ、じゃ、来週の・・・えっと、火曜の二時に・・・また、はい」
と、しどろもどろに答え、自分から陽太の手をほどいた。
それから、何事もなかったかのように、再びスーパーの袋から買ってきたものを取り出し始めた。
「茜、よろしく頼むよ。悪いね」
昇の駄目押しに、茜は、快諾とは程遠い声色で
「うん・・・」
と返した。
昇は、苦笑するにも苦笑しきれず、ただ肯いた。
陽太はというと、夢でも見るようにうっとりと目を輝かせていた。
生唾が喉を通り、ごくんと音が鳴る。
唇を、意識してぎゅっと締めた。でないと、あまりの喜びに叫びだしてしまいそうだった。
体もムズムズした。
ジャンプして、走って、転げ回りたい。
そんな高揚した気分を、陽太は拳を握ってかろうじて抑えた。
そうして、自分を凝視する陽太に、警戒に近い眼差しを投げる茜を、改めて目に焼き付けた。
この人だ。間違いない。
陽太は、確信した。
俺が探してた人は、
あの波長を持つ人は、
この人だ!
やっと会えたんだ!
陽太は、弾む自分の心だけに集中していたから、あることに気がつかなかった。
茜の視線。
自分を虜にした眼差しとは似ても似つかぬほど、この時の茜のそれが、荒みきって閉じられていることに。
最初のコメントを投稿しよう!