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バイト初日(3)
陽太は、焦った。
こういう時、どうしたらいいのだろう?
「心配しなくていいですよ! 俺がついてますから!」
とでも言いたいところだが、突然そんなことを言っても、受け入れられるはずがない。
でも、茜は怖がっている。
不安に呑み込まれそうになっている。
そうだと分かっているのに、なにもできない。
どうしていいか、分からない。
陽太は、胸の中で歯噛みした。
ふがいない自分に腹が立つ!
「茜ちゃん」
陽太が無言でいる間に、店の厨房からかすみの声がした。
「あっ、はい!」
茜は、我に返ったように返事をして、身を翻して厨房に行ってしまった。
その後ろ姿を見て、陽太は舌打ちした。
なんてことだ!
なにも、一言も言葉をかけられないなんて!
こんなことは、普通の人にはよくあることかもしれない。
が、陽太にとっては痛恨の極みだった。
なにも与えられないとは。
しかも、俺にいつも、すごい力を注いでくれた人に。
彼女は、確かになにかを必要としているのに。
とても一人じゃうまくいきそうにない状況にあるってのに。
なにもできない、とは・・・。
陽太は、物思いに沈みこみながら、ひどく生真面目な顔でうつむいた。
人間世界での自分の無力さ、経験の少なさが、首から肩にかけて、じわじわとのしかかってくるようだった。
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