影すら落ちない

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影すら落ちない

(へー。あの人も、茜さんが好きなのか)  陽太は、かすみの心中を読みながら、文字通りの感想を抱いていた。 (でも、それよりも今は、茜さん本人のことだ)  ジーンズのポケットに手を突っ込んで、陽太は深く深く息を吐き出した。 (なんて苦しい心だろう)  陽太は、茜が自室にいる時に探った、彼女の心のことを思い出していた。 (俺が感じた波長とは、裏腹だ)  窒息しそうな、  押し潰されそうな、  鉛を胃に突っ込まれたような心。 (今の彼女は、まるで・・・)  まるで、全身を雲で覆い尽くされているみたいだ。  日の射す隙が、まるでない。  影すら落ちない。  彼女自身が、影そのものだ。  体温もない。  凍り付いている。 「太陽の温もりが、届いていない・・・」  そうつぶやくなり、陽太は足音も立てず、その場を去っていった。
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