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キャンパスでランチ(1)
茜は、二時限目の必修科目(四年生になって唯一の授業である)を終えて、図書館に向かった。席を取っておこうと思ったのである。
大学図書館で一日を過ごすのが、茜の日課だった。大学の講義のない日には、市立や県立の図書館にも行くのだが、大学のほうが資料も豊富だし、自由に使えるパソコンも揃っているので、使い勝手が良かった。
図書館の中は、一つの細長いテーブルに三つの椅子が組になったものが、ワンセットずつ縦に長く並んでいる。今は試験期間でもないので、図書館はずいぶん空いていて、どこでも好きなところに座ることができた。
茜は、誰も座っている人のいない机を選び、そこにカバンを置いた。
「茜さんっ」
後ろから声をかけられて、茜はぼんやりと振り向き、ぎょっとした。
「陽・・・」
にっこり笑って、陽太が立っていた。
「ど・・・なんでここに? いるの?」
「え? 茜さんに会いにきたんです」
「会いにって・・・用事、あったっけ?」
「ええ、まあ。でも、その前に」
陽太は、眉を下げて自分の腹を手でさすった。
「メシにしません? 俺、朝から食ってないんすよ」
茜は、陽太のペースに流されるのを警戒しいしい、言った。
「・・・今、学食、混んでるよ」
「なにか買ってきて、外で食べましょうよ。せっかくこんなにいい天気なんだから!」
陽太は、大きなガラス張りの窓の向こうを指差した。
茜は、つられて窓の外を見た。
気持ちのよい風景が広がっていた。澄み渡る青空を背景に、淡紅色の桜の花びらがチラチラと舞っている。まさに、春爛漫だ。
茜はそれを見て、いくぶん気持ちが和らいだ。それで、つい
「そうね。いいかも」
と言っていた。
承諾の返事に、陽太は嬉しげに茜の手を取った。が、茜はびっくりして手を引っ込めた。
「なにっ?」
「なんでもないですよ」
陽太は、晴れ晴れした顔で悪びれずに微笑んだ。
それから、パーカーのポケットに手を突っ込み
「さ、行きましょう」
と、先に立って歩き出した。
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