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夕焼けの見える道(1)
「・・・あっ、もうこんな時間」
「ん? 四時半・・・ですね」
「そろそろ帰らなきゃ。買い物もあるんだった」
茜は、問題集やノートをカバンにしまい始めた。
「陽太君、ありがとう。おかげでずいぶんはかどったよ」
「へへへ」
陽太は、屈託なく笑った。満足の二文字に尽きる顔だった。
「また、良かったら教えてくれる? 私、バカだからすぐ忘れるかもしれないし・・・」
「毎日でも付き合いますよ!」
陽太は立ち上がると、問題集や参考書の詰まった茜のカバンを手に取った。
「俺、茜さんの力になりたいから」
「あ、ありがとう。・・・でも」
「これ、俺の携帯番号」
陽太は、二つに小さく畳んだメモを、茜に渡した。
「夜中でもいつでも、遠慮しないでください」
「あ、わざわざ、ご丁寧に、どうも・・・」
茜は、用意周到すぎる陽太のメモを、受け取ることは受け取った。
「帰るんですよね? 送ります」
「いいよ。ずいぶん長く、君の時間取っちゃったもん」
「外、見て」
言われて茜は、窓に顔を向けた。
空は、小さな雲が一つ二つ浮かんでいるだけの晴天だった。
「夕焼けがきれいに見える道っての、教えてください。今日なんか、よく見えそうだ」
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