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夕焼けの見える道(3)
帰路の途上にある、なじみのスーパーに入る。緑色の買い物カゴを持ちながら、茜は陽太に尋ねた。
「陽太君、てんぷら好き?」
陽太は、さりげなく茜の手からカゴを奪うと
「はい」
と答えた。
「じゃ、タラの芽、買おう。あ、あと、牛乳。もう、なくなってたんだった」
店を出る時には、陽太の手には、大の大きさのビニール袋が一つさげられていた。茜はそれを、自転車のカゴにぎゅうと押し込んだ。
「買い物が多い日は、カゴに入りきらないから、歩いたりバスに乗ったりするんだ」
茜は、自転車を押して歩いた。二人は、たわいのない話をしながら、ゆっくりと歩いた。
やがて二人は、商店街を通り過ぎた場所にある、小さな畑に差し掛かった。
「あ、ここだよ」
茜が、畑の向こうを指差した。そして
「あっちには、駅があるんだよ。ここからじゃ、よく見えないけど」
と説明した。
「駅・・・」
陽太は、初めて自分が、夕方の自分を見た時のことを思い出した。
あの時の場所か。
「・・・ホラッ! 陽太君、見て!」
いつもより高い声で呼ばれ、陽太は茜の指の先を目で追った。
はっとした。
陽太たちは、今、畑の横を歩いていた。それまで、風景がずっと建物に遮られていたのに、急にすべてが開けて、遠くにミニチュアのように見えるビルやマンションを除いては、なにも眼前を邪魔するものがない。
そこには不思議な開放感があり、胸をすっとさせる作用のある魔法がかけられていた。少なくとも、陽太はそう感じた。
そして、そこに自分がいた。
しかも、先日の夕暮れ時とは違う自分が。
陽太がそこに見たのは、オレンジ色にさんさんと光り輝く、まぶしい夕焼けだった。
この間の、桃色の空も可憐で美しかったが、今の空には、力の漲りと神々しさを感じる。
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