15人が本棚に入れています
本棚に追加
/161ページ
照彦の実験
その夜、台所があまり賑やかなので、かすみは不審に思ったほどだった。
なにしろ、台所のドアを開けなくとも、壁の向こうからはしゃぐような声が聞こえてくるのだ。
「姉ちゃん、絶対これ、うまいって!」
「キャハハハハ! あんた、自分で味見しなさいよー」
かすみの目に、腹をよじって笑う茜の顔が浮かんだ。こんな彼女の笑い声を耳にするのは、実に久しぶりだ。
「ハー・・・。あ、かっちゃーん、お疲れ様ー・・・。ハー・・・。苦しい・・・」
かすみが台所に入ると、案の定、茜は涙が出るほど笑っていた。台所は油のにおいに満ち、茜の手には長いさいばしが握られていた。コンロの上で、てんぷら鍋がじゅうじゅうと音を立てている。
「てんぷら粉だってうまくいくさ。とうっ」
照彦は、丸いだんご状の物体を、掛け声とともに鍋に投入した。
と同時に、茜が再び弾かれたような笑い声をあげた。
「聞いてよ、照彦ったらさー、てんぷら粉に砂糖と卵を混ぜて・・・揚げてるんだよー・・・あー、おかしー・・・」
笑い過ぎて喉を詰まらせ、茜はコホコホと咳き込んだ。
「いいじゃん。おいしいケーキになる」
「なんないよー。キャハハハハー」
二人のやり取りを見て、かすみの脳裏に
(バカな姉弟だ)
という感想がよぎったが、黙っておいた。
最初のコメントを投稿しよう!