茜の脇に

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茜の脇に

「皿、出そうか」  かすみは、食器棚のほうに一歩進もうとして 「あ、いいの。今夜は陽太君がやってくれてるから」 と言われて、足が凍り付いた。  そんなかすみには少しも気づかずに、照彦が続けた。 「そう、あの人甘いもの好きなんだよ。だから、俺がこうやっておいしいケーキを作ってやってるわけじゃん? 創意工夫のタマモノよ?」  茜は笑いながら、さいばしを照彦に渡した。照彦は、もったいぶるようにだんご(照彦的にはケーキ)を持ち上げては「あと一歩!」などと言いながら、クルクルとそれを揚げていった。 「かっちゃん、お父さんは?」 「え? あ・・・出掛けてるよ。先、食べててって」 「そう。お母さ~ん! 支度できたよー!」  茜は、台所から頭を廊下に突き出し、奥の部屋に向かって呼びかけた。間を置かずに、「今、行く~」という朗らかな声が返ってくる。  茜は、しゃもじを取って炊飯器に手を伸ばした。 「ごはん、よそうね。照彦、そろそろやめないと焦げるよ、それ」 「茜さ~ん」  居間への入り口が勢いよく開いて、スキップをするような声が飛び込んできた。陽太だ。  陽太は、まだ凍り付いているかすみにすぐ気がつき、 「あっ、かすみさん。お疲れ様です。こんばんはー」 と、愛想良く挨拶をした。  それから、率なく茜の脇に立った。
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