団欒(1)

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団欒(1)

「かっちゃん、仕事終わったの?」  ふいに、いたわるような声が、かすみの背にかけられた。  楽な服装に着替えた山入端晴子(やまのはせいこ)が、にっこり笑って立っていた。夫より二つ年下の晴子は、茜があと二十年強、年を重ねたらこうなるだろうという容姿をしている。 「あ、はい。お疲れ様です」  かすみは、やはり無表情な顔で挨拶をした。が、決してぶっきら棒な言い方ではなく、そこには山入端家の奥方に対する敬意が、きちんと込められていた。 「かっちゃんも、お疲れ様。あ、お味噌汁よそうね」  晴子は、さっさとコンロの前に進んだ。そして、茜とは反対側の陽太の隣に立つと、すぐさま陽太に話しかけた。 「陽太君って言ったっけ? 背、大きいのねー。何センチ?」 「ええっと・・・」  陽太は、返事に困った。身長など、測ったことがない。 「かっちゃんと同じくらいじゃない? 百八十はあるでしょ? 女の子みたいな顔なのにねー」  晴子は、陽太に緊張させなかった。夫と同じで、晴子は、初対面の人とでも、自然に親しげに接するコツを心得ていた。  そして、陽太も加えて五人での食事が始まった。食卓の席では、陽太が話題の中心だった。 「そう、こいつ、もてるんだー」  照彦が、口をモグモグさせながら言った。
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