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五感(2)
陽太は、己の腹に目を転じた。
これが、空腹というやつか。
飢えとは、奇妙な感覚だった。喉に小人でも住み着いたような違和感があり、そいつが「食べ物を摂取しろ!」と声にならない声で要求してくる。腹の中央にも不思議な感覚が生じている。痛みではない。が、あまり心地いいものでもない。
陽太は、空を見上げた。自分がちょうど、真上に位置していた。
「昼ってやつだ」
目がくらんで、陽太は思わず片手を額にかざした。
人の目とは、太陽の光を直接見るには、あまりに脆いものらしい。
陽太が目をシパシパさせると、緑色の光の残像があちこちに現れ、そのうち消えていった。
「変なことばっかりだなあ・・・」
ほうと吐息をついて、陽太は目をこすりつつ、一軒の店に足を踏み入れた。
「いらっしゃいませー!」
やかましいくらいのBGMとともに、これでもかというスマイルが、陽太の目に飛び込んできた。
横に長い台の後ろに、おそろいの服を着たニ、三人の若者が立っていた。
そこは、ファーストフードの店だった。
「えっと・・・じゃあ、これ」
陽太は、よく分からなかったので、適当にメニューを指さして注文をした。
「お飲み物はなんになさいますかー?」
はしゃぐような声に少したじろぎつつ、先ほどと同じく適当にメニューを指さす。
「ええっと・・・じゃ、これを・・・」
ヒヤヒヤしながら、陽太は注文を終えた。即行で出てきた飲み物と食べ物を受け取り、空いているテーブルに運ぶ。さっそく飲み物にストローをさして、中の液体を吸い込んだ。
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