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五感(3)
「チュー・・・うっ・・・」
ガツンと味覚がやってきた。
苦い・・・。
陽太の選んだものは、アイスコーヒーだった。
(なんてことだ。注文を誤ったな・・・)
と後悔しても、もう遅い。
陽太は、顔をしかめて小さく舌を出した。
それから、ふと、紙コップの脇に転がっている小さな二つの容器に気がついた。
一つは透明、もう一つは白い液体が入っている。
陽太は、ペリリと蓋を開いて、おそるおそる透明のほうをなめてみた。
ひどく快い味がした。苦味に侵された舌には特に心地良い。
白いほうも、なめてみた。少しだけ甘くて、まろやかな優しい味がした。
(そっか。これを入れて飲むわけね)
ようやく陽太は、アイスコーヒーをにっこりして飲むことができた。
食べ物のほうは、申し分なくうまかった。陽太の頼んだものは、テリヤキバーガーとフライドポテトだった。
指についたハンバーガーのたれをチュチュと吸うと、陽太は満足げに席を立った。
満腹。
なんて素晴らしい。
満ち足りるとは、このことか。
体中の全細胞が、落ち着きを取り戻している。そう感じる。
「さあてと」
陽太は、小さな声で独り言をつぶやいた。
「腹も膨れたことだし、目当てのものを探しに行こう」
陽太は、一際パッチリとした二重の瞳を輝かせて、店を飛び出した。
その人を、探すんだ。
このあたりにいることは分かっている。
あの、ひどく、ひどく、俺を虜にした眼差し。
それを持つ人は、この街のどこかにいる。
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