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波長(1)
午後じゅう、陽太は街を歩き続けた。
途中、公園の噴水や、ワゴン販売のクレープや、かっ飛ばしていく車や、散歩中の犬・・・まあ、数え上げればきりがないほどの物事に気を取られた。
結果、探し物にはたどりつけなかった。
そうこうするうちに、太陽は西に傾いていた。
「夕方かあ・・・これが・・・」
陽太は、駅の近い線路沿いの道で、西に体を向けたまま立ち尽くした。
そして、うぬぼれ抜きで自分の美しさに心を奪われた。
昼間は青一色だった空が、桃色に染まっている。
太陽は、その桃色の色素を雲にも分け与えていた。西の世界は、あたかも、一日の活動を終えた地上の生き物に、労をねぎらおうと、壮大で優雅なショーを一時だけ垣間見せているかのようだ。
陽太は、線路と道路を隔てているフェンス越しに、夕陽を陶然として眺めた。
その時。
不慣れな五感で感じたのではない。
何十億年も使ってきた能力でもって感じた。
陽太は背中に・・・確かに方向的には背後だったが・・・正確には全身全霊でもってそれを捉えた。
(あの人だ!)
陽太は、ただでさえ大きな瞳を見開いて、靴裏でザンッと砂利を鳴らしながら振り向いた。
が、そこには誰もいなかった。
人間の視力では、捉えられなかった。
でも、間違いない。
この波長は、あの人だ!
絶対だ!
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