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「千穂!こんな所にいたのか」
「あ、お父様」
燕尾服を着た男性だ。ひげを携えた男性はどうやら千穂の父親らしく、なるほど威厳のあるしっかりとした立ち姿だ。
「まったく、お前はしようのない奴だな」
「専属使用人を持ててはしゃぐのもたいがいにしなさい」
続けて、若い男性と扇を持った女性からも声をけられる。
「ほっほっほ。そろそろ時間じゃて、お小言は後にしましょうて」
続けて、年老いた男性も出てきた。千穂の様子から見るに、家族のようだ。父親は高乃宗太郎、若い男性は兄の高乃隼人、扇の女性は母の高乃真幸、老人は高乃段という名だ。千穂の家族を前に構えるなぎさだったが、続く老人の言葉にうろたえる。
「しかし、千穂。今日の事、わざとその子に教えなかったじゃろ。……本当に悪い子じゃな」
慌てて千穂を見るなぎさ。千穂はごめんねと言わんばかりにてへぺろとして見せた。……この野郎、である。
千穂をにらみつけるように見るなぎさに対して、段は話しかける。
「これお嬢さん。この通り、千穂は少々変わった子じゃが根はいい子じゃ。すまないが仲良くしてもらえんだろうか」
太く白い眉に隠されて目が見えないが、柔らかな言葉とは裏腹に、何か鋭さを感じる。だが、なぎさはひるまずに言葉を返す。
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