第二話『契約』

1/2
4人が本棚に入れています
本棚に追加
/62ページ

第二話『契約』

(こいつが、高乃千穂……)  千穂の姿を見たなぎさは、心の中でそうつぶやく。表面上では緊張したように振る舞ってはいるが、なぎさの心中はどういうわけか憎悪が渦巻いている。しかし、その感情をここで爆発させるわけにはいかなかった。それというのも、なぎさは高乃千穂の専属メイドの募集に応じて、見事に書類審査だけでその選考に通ったのだ。今さらせっかく得た千穂に近づくチャンスをみすみす不意にするわけにはいかなかった。 「さ、こちらにお掛け下さい」  千穂は微笑みながら、なぎさと対面に座る。メイド長は、千穂の隣で黙って立っている。千穂はふうっとひと息つくと、手に持っていた紙を机の上に広げて一枚一枚確認している。そう、これから仕事についての説明が始まるのだ。確認が終わると、千穂が話し始める。 「高山なぎささん、この度私の専属メイド採用の件、おめでとうございます」  正式に採用するという挨拶から始まった説明。その説明によれば、現在居るのは屋敷の東にある使用人たちの生活棟らしい。千穂は庶民感覚を養うためだと、自ら進んで使用人の中で生活しているそうだ。家族には反対されたようだが、千穂は無理に押し切ったのだ。その話の最中、千穂は「お話がそれましたね」と言って、仕事の説明に戻る。採用理由や給金の話など事細かい千穂の説明を、なぎさは食い入るように聞いている。  どうやら、なぎさの部屋は廊下を挟んだ千穂の部屋の真向かいになるらしい。同室になるという選択もあったのだろうが、なにぶん使用人の部屋は狭い。仕方のない事だった。  そして、話は学校の事に入る。千穂は学校のパンフレットを取り出し、なぎさにこう告げた。 「なぎささんには、私と同じ学校に通っていただきます」
/62ページ

最初のコメントを投稿しよう!