第四話『街を歩く』

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第四話『街を歩く』

 ある天気の良い日の事。とある街の大きな駅に一人の人物の姿があった。その人物は駅を出ると、大通りを一人歩いていく。  青い髪を後ろで束ね、帽子をかぶりジーンズをはいている。見た目は少年のようだ。表情は地味に浮かない感じだが、その歩みはしっかりしている。  時間は少し戻って、衣装合わせの日の事ーー。 「え?実家に戻りたいのですか?」  千穂が驚いた顔でなぎさに聞く。なぎさは荷物を最低限しか持ってこなかったので、実家から少し持ってきたいと事情を説明する。それを聞いた千穂は、 「わかりました。ただし、門限は18時です。もし遅くなりそうでしたら連絡を下さい、久留里さんを向かわせますので」 と、条件付きながら許可してくれた。なぎさは千穂に頭を下げ、さっそく翌日に屋敷を出てきたのである。 「さて、さっさと戻って荷物選ばねぇとな」  なんと、なぎさは少年だったのだ。しかも、本来の口調は少し乱暴だ。それがどうして財閥のお嬢様の専属メイドをしているのか、まったくもって不思議な事でしかなかった。 (いくら目的があるとは言っても、女装してメイドやってるなんて恥ずかしすぎて口が裂けても言えねぇ……)  どうやら何か目的があるようだ。  なぎさの身長はとても低い。しかも、童顔なうえに体つきも華奢なのだ。服装次第では「お嬢ちゃん」と声をかけられてしまう事も、実際にしばしばあった。だが、今回ばかりはそれを武器に、高乃家にメイドとして入り込んだのだ。  さて、なぜメイドかと言うと、答えは簡単。たまたま千穂の専属メイドの募集を知ったからだ。なぎさは早速応募し、千穂と同い年という理由で採用されたのだった。 (正直、採用されたのは驚いたが、ボロ出さないために頑張ったからな。……とにかく今はさっさと家に戻って持っていく物を決めないと。ややこしいのに見つからないうちに、急ぐか)  なにせ地元だ。いつどこで同級生に出くわすか分からない。なぎさは早足で移動する。  だが、突然の事だった。 「見つけたわよ、なぎさ!」
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