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玄関を出ると、わたしは涙を堪えてトウマの車に向かって走り出した。
わたしの胸を占めていたのは、悲しさではなく怒りだった。きっと、すべてあの男のせいだ。トウマが仕組んだに違いない。だからみんながわたしのことを忘れてしまったのだ。わたしはトウマが許せなかった。
あの男がわたしからすべてを奪ったのだ。わたしはトウマの車の前まで着くと、一度大きく深呼吸をした。わたしからママやユウキを奪った男に対する強い怒りが、わたしの体を突き動かしていた。
だが──それはわたしが車のドアノブに手を触れようとしたときだった。
わたしは思わずはっと息を呑んだ。
助手席に女の子が座っていたのだ。
わたしと歳の近い女の子だ。だが、わたしとは似ても似つかない。不自然に凍りついたように、全身がぴくりとも動かなくなった。
わたしは中にいる彼らに気づかれてしまわぬように、息を押し殺してドアにそっと耳を押し当てた。
「なあ、僕の言った通りだろう。君は必ず戻ってくると思っていたよ」
「ふざけないで。全部あなたの仕組んだことなんでしょう?」
車内ではわたしとトウマが普段している応酬のような言い合いが、見知らぬ女の子とトウマの間でごく自然に交わされていた。わたしは声を出すこともできずに、呆然と立ち尽すほかなかった。
昨夜のニュースやさっきのママ、弟の姿がフラッシュバックした。
"あの子"という言葉……。
やがて、車にエンジンがかかった。わたしが世界から弾き出されたように、わたしの席に座るのはわたしではなくなっていた。
わたしはもしかすると、ずっと何か大きな思い違いをしていたのではないか……。
冷たいものが背筋を伝った。だが、気がついたところでもう遅い……。
車が発進する間際、ふと車内の女の子と視線が交錯した。
一瞬だったが、顔はよく見えた。冷たい瞳が静かにわたしを見据えていた。
そのとき彼女が奇妙な笑みを浮かべていたように見えたのは、きっとわたしの見間違いではあるまい。
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