Oblivion〜終の住処〜

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部屋の隅に雑然と置かれたテレビからは、代わり映えもなく人気子役の失踪事件についての報道が繰り返されていた。 『ドラマ「虐殺少女ブラッドラバー」などで主演を務めた人気子役の戸川紫苑さん(10)が、先週木曜日から行方不明となっていることが明らかになりました。 警察への取材によりますと、先週木曜日、戸川さんはテレビ局で行われていたドラマの撮影の休憩時間に突如失踪し……』 戸川紫苑、とは、十年間という短い人生の中でも既にわたしが幾度となく耳にした名だった。 明るく快活で聡明、礼儀正しい上に可愛らしさを兼ね備えた完璧な少女──それがわたし、戸川紫苑という人気子役だ。 もちろん、それらは全て紛い物のわたしではあるのだが。当たり前だろう、十歳の少女にそれら全てを求めるのはあまりにも酷だ。 むしろ演技である分、完璧な少女を完璧に演じきれているハイパー子役っぷりに感嘆の一言があってもいいほどだ。 ある時は冷徹に殺人を繰り返す虐殺少女を、ある時は歴史上の人物に恋する少女を……と、わたしはどんな役でもそつなくこなし、且つ誰に対してもいい顔をし続けた。 幼いころのわたしは、何も知らなかったのだ。あの頃のわたしは愚かだった。 けれど、言われたことをやるだけの従順なわたしなら、仕事に対してもママに対しても、あるいは自分の存在に対しても、疑問を抱いたりせずに済んだのかもしれない。 だが、わたしは"いい子"ではなかった。 わたしのため、と言いつつ自分のことしか考えていないママからも、わたしを金儲けの道具としか思っていないテレビ局の連中からも、次第に、逃げ出したいという思いが強くなっていった。 わたしは、それ以上耐えることができなくなっていた。そしてそんなときに、わたしは近所のアパートでフリーのライターとして生計を立てるトウマという男に出会った。 彼はあまりにも怪しい男ではあったが、わたしの気持ちを理解する唯一の人間だった。 わたしは彼に頼んで、綿密な計画をたて誘拐してもらった。上手くいったか否かは、お分かりだろう。それがこの結果だ。
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