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「あっ、いえ、そうではなくて……」なぜかはにかむ小夜。「刑事さんって、もしかして――……徳憲さんですよね?」
「は?」
名前を当てられて、徳憲は目を白黒させた。
はて、この子にはまだ名乗った覚えはないのだが――。
「やっぱり徳憲さんだ! 覚えていませんか? 三年ほど前、パトロール中だった徳憲さんが、私を暴漢から助けて下さったこと!」
まくし立てられたが、即座には思い出せなかった。
何しろ徳憲は検挙件数の最多記録を持つ。泥棒や痴漢、酔っ払いの暴力沙汰などをいなした経験は数えきれない。いちいち個人を覚えてなどいない。
「徳憲さんは当時、まだ巡査部長でしたよね? 今は出世なされたんですね! 凄い!」
一方的に懐かれてしまった。
どうにも苦手な展開だ。馴染みのないウェブ発の事件。過去に助けた女性との邂逅。合同捜査本部では二件の殺人事件も抱えている――順風満帆だった徳憲に陰りが見えた。
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