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突撃クレーマーの代名詞であり、彼を揶揄するあだ名でもあった。本人の建前は飽くまで、あこぎな商売や近所迷惑をたしなめるという名目だ。度を過ぎて業務妨害に問われたこともあるが、彼を祭り上げる支持者は『正義』をしばしば口にした。
『この間の露天商へのクレームは笑ったな』
「おう! あれは再生数もまぁまぁだったな! クレームを入れたいリクエストがあればメッセージくれよな! 随時募集中だぜ!」
めぼしいコメントには返事するのも忘れない。
生配信だから、その場でコメントにリアクションを取れるのも特徴だ。
「……さぁて、玄関を出て隣室の前に着いたぞゴラァ!」
突撃クレーマーはスマホの自撮りを前方へ構え直した。
そこはアパートの廊下だ。隣室の白い玄関が煌々とスマホの電灯を照り返している。
中からは相変わらずクラシック音楽がボリューム最大で漏れて聞こえる。
「おーいお隣さんよぉ! もっと静かに音楽聴けや!」
クレーマーはドアを叩いた。
音楽に負けじと声を張り、殴るようにノックする。
――いらえはない。
無視されているのか、それとも音量が大き過ぎてノックに気付いてもらえないのか。
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