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3.バズる
警察総合庁舎の七階にある科捜研は、総勢約八〇名から構成される警察屈指の頭脳派集団だ。ただし彼らは研究職なので逮捕権や捜査権限は有しておらず、刑事部の依頼に応じてのみ事件に首を突っ込むことが出来る。
依頼するには、第一法医科を介さなければならない。証拠品を鑑定したい場合や、研究員を捜査現場に随行させる臨場要請も、必ず第一法医科で申請する必要がある。
第一法医科は庶務課のようなものであり、本業の医学鑑定は第二法医科が担っている。これはもともと科捜研の人手が足りず、法医科が受付も兼務していたことに由来する。
徳憲は窓口で鑑定依頼を提出した。
今まで何度か捜査主任をこなしたが、科捜研へ踏み込んだのは初めてだ。いつもは書面上の手続きだけで事足りていたから、じかに内部を視察できるのは新鮮だった。
「犯人像のアドバイスを頂戴できればと思いまして、心理係の方と話せないでしょうか」
心理係の管轄は文書鑑定科なので、そこの管理官に話を通す必要がある。
受付は文書鑑定科に内線をつなぎ、やがて目通りの許可を得られた。
「おお、君が徳憲くんか。若いな。自分が文書の管理官・穂村憾十郎だ、よろしくな」
管理官は徳憲より二回りほど年上の、ロマンスグレーがよく似合う壮年男性だった。
重低音の声は腹に響く。涼しげな流し目と彫りの深い鼻梁が自慢のナイスミドルで、いかにも学者然とした白衣をまとっている。今はデスクで書類の捺印に追われていた。
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