虚空の隣

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 隣の感覚が広い。否応なしに、それが自分は独りなのだという現実を認識させてくる。  つい先日、3年間付き合ってきた恋人と別れた。  別れは、思った以上に淡泊なものだった。それが、いざ今となって余計に孤独さを引き立たせてくる。  冷静に考えろ、と何度も自分に言い聞かせる。  所詮、付き合う前に戻っただけじゃないか。  いや、果たしてそうか?  もう一人の自分が疑問を投げかけてくる。  お前は失ったじゃないか。恋人である以前は、掛け替えのないと思っていた友人を。多くいる内の一人を失ったじゃないか。 「ねえねえ、次どこ行くー?」 「よーし、じゃあ次はあの映画館に行って、その後は……」  カップルがすれ違う。楽しそうだ。自分には、もう何もない。いや、あるにはある。ただ、失った存在は、それほどに大きかった。 もう手を繋ごうにも、繋げる手はない。温もりを分かち合うことはない。自分の手は、隣の虚空を掻き切るだけ。 「俺は……彼女に依存していたのか……」  口を衝くのは、そんな三文小説にでも出てくるような台詞。自嘲気味に嗤う。己を嗤う。 「別れよう」  別れを切り出す彼女の口から出たのは、そんなありふれた言葉。ああ、小説の世界のようなことが、現実に降りかかるとは思わなかった。 「どこがダメなの?」 「ううん、貴方がダメっていうんじゃないの。ただ、何となく、私じゃダメなんだと思うの」  訳が分からなかった。ただ恐らくきっと、彼女の感性に自分が噛み合わなかったのだろう。  なぜ、3年も経って気付くのか。  その点にだけ、一瞬苛立ちを覚える。 「そっか。分かった。ごめんな、きちんと彼氏になれなくて」 「ううん、私こそ、ごめん」  滑稽なやり取り。もっと言いたい事はお互いあったろうに。それとも、これが大人のやり取りというものなのか?  結局、互いに激昂して言い争う、などということはなく、その関係は、思った以上に簡単に片付いてしまった。そう、片が付いた。もう過去の事。振り向く必要のない、時間の残滓。  何もかもがどうでもいい。特に、人間関係というものが下らなく思えてくる。所詮そんなものか。所詮、皆そうやって簡単に終わらせられる程度の信頼感しかないものなのか。  いや、下らないと言うのならば、たかが彼女を一人失っただけで、なぜここまで思い悩まねばならないのか。それこそナンセンスではないか。
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