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幕間 遊戯を終えて
「よぉっしゃぁぁぁー!俺の勝ちだ!」
最後の計算を終えて、年甲斐もなくガッツポーズをとったのは、無精ひげの男だった。
年齢は四十代の半ば、というところだろうか。
「えぇー?!
なんでまた父さんが一番になるんだよ!ずっと底辺突っ走ってたじゃないか!」
まだ幼さの残る少年は、少々言葉を荒げてガッツポーズを決めた無精ひげの男に食って掛かる。
「はっはっは。これぞ究極の職業、『ギャンブラー』の醍醐味ってやつだろー?一発大逆転だぜ。
これだから博打ってのはやめられねーんだよなー。」
無精ひげの男は少年の頭をぐりぐりとかき混ぜながら答える。
「おばさーん、叔父さんがまたこんなこと言ってるけどいいのー?」
宴の準備なのか、酒や寿司などの馳走を大きなテーブルに並べている中年の女性に声を掛けるのは、二十代後半ほどに見える妙齢の女性だ。
「うーん、子どもが小さい時は教育上良くないし、って注意とかもしてたんだけどねぇ…言ってもやめてくれなかったし、まぁ自分の小遣いの中でやりくりしてる分にはいいかしらって。今は黙認してるのよ。」
中年の女性は諦めた様に無精ひげの男の方を見ながらため息を吐く。
「そうだぞー、ちゃんと博打で稼いだ分は家族に還元してるから、俺の場合はいーんだよ。」
無精ひげの男は、どうやらそれなりに稼いではいるらしい。
不公平なことに、この世の中には持ってるやつというのは居るものである。
「父さんって勝負事はなんだかんだ言って強いんだよねぇ。僕、毎年負けている気がするんだけど。」
そう言って、少年が無精ひげの男になんとなく尊敬のようにも見える目を向けている。
こりゃー、この少年の将来が少し不安になってくるなぁ。と妙齢の女性はため息をついた。世の中、父の背中を追うものも一定数はいるのである。
「…ふむ、小生は二番ですね。」
今度は三十代半ばだろうか、落ち着いた雰囲気のある男性が手元の紙っぺらを数え終えて、トントン、と揃えながら言った。
「なんであなたはさっきから『小生』だなんて一人称を使っているのよ。今時そんな一人称使うやつ居ないっての。」
男性にツッコミを入れたのは、先ほどの妙齢の女性だ。
女性の手元にある紙の束は誰がどう見ても少ない。女性は数える気がないのか、それともとうに数え終わってしまったのか、札の種類を分けて片付け始めていた。
「折角小説家という職業に就いたのでね、らしく振舞ってみようかと思いまして。」
落ち着いた男性も女性の仕分けた札の上に、自分が持っていたそれを重ねていく。
あっそ、と妙齢の女性は興味なさそうに言った。
「そーいえばお前だけだったなー、最後まで独身貫いたの。」
無性ひげの男がカカカと笑いながら落ち着いた雰囲気の男性を揶揄う。
「…いいんです、ほっといてください。
男に捨てられて経営破綻してすべてを失うような結果よりはいっそ清々しいじゃないですか。」
ぬあんですってぇぇ、と妙齢の女性が青筋を立てているが、それもどこか芝居がかった様子だ。
「愛していたのよ…だからこそ、離婚してからは自暴自棄になってしまって…。」
よよよ、とどんどん白々しい演技になっていく女性。
しかしついでに、素面な声音で「そうゆー余計なこと言っちゃうから、あんたはリアルでも三十路まで童貞になっちゃうのよねー。」なんて付け加えている。
落ち着いた雰囲気の男性は聞かないフリをしているが、地味に堪えていそうな様子であった。
「愛子ねーちゃん、それまでぶっちぎりの一位だったのにねー、残念だったねー。」
と、幼さの残る少年が言う。
自分の使用していた車から青色のピンと桃色のピンを外しながら。
少年の手元に残る職業カードには、銀行員、と書かれている。どうやらそれなりに無難な職についていたようで、札束もそれなりにある。
平々凡々だが、悪くない人生を送れた、というところなのだろう。
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