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月夜の怪物
煌めく星を蹴散らすように、大きな満月が空に浮かんでいる。
波の音がさざめき、満潮の海の水面に鏡のように反射しする。
月明かりの下、海。これ程神秘的な情景はあるだろうか。
そんな景色を眺めながら、俺は砂浜にぼんやりと座っていた。
……ばしゃんっ、と大きな水しぶきが上がった。
何か大きなモノが水中から飛び上がったかのように。
目を凝らして見ると、ひとつの大きな人影が立っている。
大きな月明かりに、てらてらと光を与えられたソレは美しい怪物。耳の横に鰭のような物が生えていて、二本のしなやかな足には七色に煌めく鱗。
顔もたいそう美しく、白い肌に切れ長の涼し気な目元。通った鼻梁、薄い唇。
俺は思わず立ち上がった。そして足が濡れるのもお構い無しに飛沫をあげて海の中へ歩き出していた。
はねた海水が顔にかかり、しょっぱい味が口に広がる。目にも入り沁みるが構うことなどない。俺は必死だった。
捕まえなければ。手に入れなければ、と。
……そいつは一糸まとわぬ姿で俺をジッと見つめていた。
近付けばよく見える。その月明かりの下に照らされた身体の美しさと妖しさが。
肩と鎖骨、足の付け根、臀部にホクロ。臍の横に紅い痣が白い肌によく映えた。
手を伸ばし細い腕を掴んで引き寄せる。
あっさり倒れ込むように胸に抱き抱えたら、ふるりと小さく震えて収まった。
あんなに海に浸っていたはずなのに『彼』の身体はひとつも濡れていない。抱きしめれば柑橘系の爽やかな香りが鼻腔をくすぐる。
顎に手を添え上を向かせ、その薄いがピンクに色付いた唇に……。
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