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A君とB君
「……君さ。友人をそういう形で登場させるのやめてくれない?」
ここはファストフード店。すぐ近くの席で、2人の男子高校生が座って話をしている。
先程の台詞は、そのうちの一人の子の発したものだ。
名前をA君としよう。
彼は手に文章を書き連ねた紙の束を抱えており、それを読んでの感想らしい。
呆れと軽蔑の混じった顔で、もう1人を軽く睨みつけている。
「良いだろう。夢を見たんだから」
睨みつけられた方は平然とそう答えた。B君としよう。
「夢をそのまま書いたのか。それにしてはなかなかよく書けてるよ……些か陳腐で鼻につく表現だけどさ。でも、これ気になる箇所がいくつもある」
「なんだ、気になるって」
A君は紙の束をバサリとテーブルの上に置くと、深々溜息をついた。
「まず冒頭。これ、僕じゃあないよな? いやそうじゃあないなら……」
「お前のことだ。お前の事を意識して書いた」
その途端、テーブルに突っ伏して何度目かの大きな溜息をつくA君。
「僕をこんなに綺麗に書いてくれてありがとう。でもなんで君は……僕のホクロの場所を知っているんだ? 足の付け根なんて知ってる奴が稀だろ」
「……」
「おい目を逸らすな。笑って誤魔化すな。やっぱり目を逸らすのか。」
A君に詰め寄られて、B君は目を逸らしたままジュースを飲んで一言。
「……この前、寝てる間に」
「見たのか! 勝手にズボン下ろして! 馬鹿じゃあないのっ? 君、本当は馬鹿だよね!?」
立腹して声が少し大きくなるA君。対して何故か照れた顔のB君。
「お前に関してはこんなに馬鹿になっちまうんだ」
「じゃあ正真正銘の馬鹿だ。こんなの文芸部の作品に書いてくるなんて。しかも後半、完全なる官能小説じゃあないか!」
ヒートアップして拳を振るわんばかりに怒るA君に、B君がまたポツリと一言。
「これは口説いてるんだぜ」
そこで一瞬、グッとA君黙り込む。
「……ちゃんと口で言ってくれよ」
絞り出すように言った言葉にB君が深く頷いた。
「そうだったな……なぁこの後うち来いよ。親が帰ってくるの遅いんだ」
「うん……」
―――そして2人は店を後にした。
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