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「何だい」 「護士団の人たちのことなんだけど……ほんとのところ、寂しくない? 子供の時から一緒だったんでしょう?」  鴉はちらりと視線を桜に向ける。それから、目を細めた。 「ほんとのところは、少しだけ。抜ける時、何人か泣いてくれてな。とんでもない奴らばかりだと思ったけど、そうでもなかったかもしれないな。まぁ、選んだのは自分だから」  選んだのは自分。そう言い切れるのは強いなぁ、と桜は思う。  護士団での暮らしは、鴉にとって苦しかっただろうが、楽しいこともあっただろう。  鴉が寂しくてたまらなくなった時、ちゃんと気付いて、支えられたらいいな。  そんなことを考えていれば、鴉の視線を横顔に感じた。顔を向ければ、目が合う。 「……俺も、一つ、聞いていいか」 「なぁに?」 「……どうしてお前はそんなに優しいんだ? まがりなりにも、俺は、お前に嫌な思いをさせたと思うんだが……」 「……あぁ」  ――どうして優しいの? 何度も聞かれたことのある質問だ。  そんなにおかしなことを、自分はしているだろうか。不思議に思いながらも、いつも答えるように、素直に答えた。 「……あのね、私の弟ね、お母さんのお腹から生まれて、すぐに亡くなっちゃったの。お母さんも、弟を生んで、それで亡くなったらしいわ。生まれてすぐに亡くなった子供は、神様の……龍のもとへ行くんですって、知ってる? 龍にお仕えする人になるの」 「あぁ、知ってるよ」 「うん。だからなの」 「……え?」  鴉が眉を寄せる。 「ど、どういう話だったんだ? それが、どう……え?」 「あ、え、えっとね、だから……弟が、神様と一緒に、世界を見守ってくれてるでしょう。だからね、私も世界を大事にしたいなって思って。小さい頃から、そう思ってるの。世界ってつまり……人も含むの。鴉だって、誰だって、龍のもとに生まれてきた子でしょう? 空で、弟が一生懸命見守ってる人たちよ。私だって、助けてあげたい、大事にしてあげたいの。弟の大事にしている人たちだもの」 「でも……大事にする価値のないような奴も、たくさんいるだろ」 「本当に悪い人なんて、いないと思うのよ。私のお父さんは、野犬に襲われて亡くなったんだけど、その犬は子を守ろうとしてただけだったわ。そんな風に、みんな、誰かを想って、何かに苦しんでいるのよ……そんなことを考えてたら、もう何とも思わないの――我慢している訳じゃないのよ。でも、怒ろうとは思わない……ひどく悲しい時はあるけど」 「……この間の賭け、あれは、玄次たちの趣味みたいなもんで、そんな同情してやる理由なんかなかったぞ。憎んでいい相手だろ、ああいうのは」 「憎む、のはよくわからないの。ただ、凄く悲しくなるわ。そういうことをしてしまうように育ってしまったのが、可哀想で、とても辛くなる。誰からも愛されて、満たされていれば、誰かを傷つけて楽しもうだなんて思わないはずよ。誰かに傷つけられてしまったから、満たされてないから、そんなことをしてしまうようになるんだと思う……だから可哀想なの」
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