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番外編:Happy Halloween
直斗さんとお付き合いが始まってすぐの事。
彼が毎日お花を届けてくれることもあって、お店に行く頻度が減っていたけど、久しぶりにお店に顔を出してみた。
「こんにちわ。」
「あら、依知香さん!いらっしゃいませ。」
「佳代さん、こんにち…?」
そこにはカボチャの被り物をした佳代さんの姿。
思わず無言で見つめてしまう。
「依知香さん?」
「佳代さん、それ…」
「あ、これ?今月はハロウィンでしょ?だから、これ被ってるの。お店の飾りつけも、変わったでしょ?」
そう言われて、店内を見渡すと、そこら中に小さいカボチャや髑髏、オバケが飾ってある。
「お花屋さんでもハロウィンとかするんですね。」
「もちろん!ダークトーンの暖色のお花を使って、こういう小さな雑貨と一緒にリースを作ったり、カボチャの形の入れ物にお花を飾ったり。色々楽しめますよ。」
「へー。知らなかった。」
ハロウィンって、カボチャと仮装とお菓子で楽しむものだとばかり思ってた。
手近にあった、小さなリースには、ミニカボチャと魔女の帽子が飾ってある。
こういうの、遊び心があって可愛いな。
「ふふ、依知香さんなら、店長に頼んじゃえば色々作ってくれるでしょ?」
「へ?」
「だって店長、依知香さんに甘々だものね。」
楽しそうに言う佳代さんに、私の顔に熱が溜まる。
私と直斗さんが付き合い始めた事を、佳代さんはすぐに知っていた。
『店長の様子がいつもと違ったからピンと来たの。あんなに嬉しそうな、幸せそうな店長初めて見たんですよ。』
この前佳代さんに会った時に、そう言われた。
どれだけ分かりやすかったんだろう。
それもあって、お店に顔を出すのが恥ずかしかったというのもあったりする。
「佳代さん、あんまり依知香をいじめないでください。」
「店長おかえりなさい。いじめてなんてないですよ?私は心底2人の事を応援してますから。なんせ、店長の長年の片思いが実ったわけですしね。」
「佳代さん、あんまりからかわないで下さいよ···」
「はいはい。2人してそんなに顔を真っ赤にしてないで、依知香さんにリースでもブーケでも作ってあげてください。」
ニコニコ笑いながら、佳代さんは奥へと姿を消してしまった。
残された私達は、なんだかとても恥ずかしくて、顔が見られない。
「…何か、作ろうか?」
「え?」
「ハロウィン用の飾り。何がいいかな?」
「え、っと…じゃあ、これ。」
「小さいのでいいの?」
「あんまり大きくても、どうしたらいいか分からないし、これ可愛いから。」
「そっか。分かった。楽しみに待ってて。」
「うん。」
それから2週間後のハロウィン当日。
もちろん彼も私もお仕事。
だから、パーティーまでは出来ないけど、それでもせっかくのイベントだから、ちょっとだけ部屋をハロウィン仕様に飾って、簡単なコスプレもしてみた。
ただ、沙也のおすすめの衣装を借りたんだけど、ちょっとセクシー過ぎじゃないかな?
悪魔、らしいんだけど…
着替えるか、このままでいるか悩んでいたら、インターホンの音がして、慌てて玄関へと走った。
来ちゃったものは仕方がない。
このままで過ごそう。
「はい。」
「依知香、これ…」
玄関のドアを開けて、直斗さんを迎え入れようとしたら、私を見た直斗さんがそのまま固まってしまった。
「直斗さん?」
「あ。ああ、ごめん。まさか仮装してると思わなくて。えっと、なんだっけ…あ、そうそう。この前言ってたリース出来たから持ってきたよ。」
「ありがとう。」
綺麗にラッピングされたリースを受け取って、直斗さんと部屋に入る。
早速リースを部屋に飾ってみる。
うん、可愛い。
小さなカボチャと小さなオバケが付いてるリースは、ハロウィン感満載。
「晩ご飯もカボチャ料理にしてみたんだけど、直斗さんカボチャ大丈夫だったよね?」
「…」
「直斗さん?」
「…」
「おーい。」
「…あ!ごめん。ちょっとボーっとしてた。」
「…どうかしたの?さっきから何か変。ソワソワしてるし。」
「あ…」
直斗さんの目をジッと見つめると、困ったような顔をした後、急にぎゅっと抱きしめられる。
「直斗さん?」
「…そりゃ、ソワソワもするでしょ。大好きな彼女が、そんな恰好して出迎えてくれたら。」
そんな恰好…。
そう言われて、自分の服を思い出す。
「いや、あの、あのねっ?これはその、会社の同僚の子が勧めてくれたから借りただけでっ…!」
恥ずかしくなって、なんだかよく分からない言い訳を捲し立てる。
「…ね、依知香。俺、ちょっと我慢出来ないから、言ってもいい?」
「何を…?」
「トリックオアトリート。…お菓子くれても、イタズラ、するけどね。」
「なっ!そんなの、ズルい…」
「ズルいのは依知香だよ。こんな服着て、俺の事煽るんだから…我慢なんて、出来るわけないでしょ。」
「んっ…!」
唇を食まれ、舐められ、隙間から捩じ込まれる舌に、翻弄される。
やっぱり、ズルいのは直斗さんの方。
こんなに簡単に、私の体を熱くするんだから。
「…はぁっ。依知香、ベッド、行こうか。ちゃんと抱きたい。」
「ん…」
直人さんがくれた花に見守られて、熱に浮かされたような私達は、深く抱き合いながらベッドに沈みこんでいったのだった。
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