悲しい告白

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 あと一つ、これはどうしても言いたくなかったけどと、れん太がすでに泣いている。 「もういい、言いたくないことは言わなくていいんだ」と佐吉が言うと 「おいらずっと言わなきゃと思ってたんだ、おいらの事でさきっちゃんが知らない事があったらダメなんだよ」 れん太は嗚咽しながらやめようとはしなかった。 「さきっちゃんが助けてくれたあれ、知らないおばさんに騙されたんじゃなくて本当の母ちゃんに売られたんだよ」 絞りだすような声だった。  れん太がもうすぐ14になるという時おこうさんが死んだ。  普通十歳前後で子供は奉公にあがる。  れん太はゆっくりな子だけど出来ないわけじゃないんです。だから人より少し時間をかけて育てますと言い奉公に出さず、家の事や針仕事までひととおり教えていた。このおかげで今もれん太は家の事はお手の物だ。  れん太がなんとか外でも働けるだろうという事で十四になったら二之湯で奉公をすることを取り決め、一安心したと言っていた矢先の死だった。 おこうさんの死から奉公するまでのほんの少しの隙をつくようにして誰の心にも傷を残す出来事がおきてしまった。 ある日ふらりとれん太の元に中年の酒臭い女がやってきた。 「覚えておいでだろ?本当の母親だよ」 見窄らしくなっていたが、確かにれん太の暗い記憶の中にある顔だった。 どこをどう探したものか、ただの偶然かわからぬが、れん太の居場所を突き止めたのだ。 「あんたを死んだ事にして名前まで変えさせて、全くなんて事だろうね、あんたの周りの大人全部をお上に訴えたっていいんだよ」 と女は酒臭い息で言い募った。 「今後一切死んだ子には関わるな、なんて同心が変な事言いに来たと思ったらこんな事だったとはね」 この時動いたのは勿論二之湯の亀五郎で、佐々木新五郎が止めをさしに来た。そして証文に爪印まで押させたのだ。  そんな証文の事など知らぬれん太は、女の言う事が怖くて、それだけはやめてくれと懇願した。 「じゃあ、親孝行してもらおうかね」と当たり前のような顔をして、れん太を連れ出した。  涙があとからあとから流れ出ているれん太を抱き寄せながら 佐吉は頭を金槌で叩かれたようだった。 何てことだ、修行中とはいえ、体は救えてやっていても、心はそのまま今この時まで置き去りにしてしまっていたのかと佐吉も堪らず嗚咽をこぼす。
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