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悲しい告白
さきっちゃんが知ってるおいらの死んだ母ちゃんは、本当の母ちゃんじゃないんだ。
おいら、場所は覚えてねえけどよその長屋で生まれたんだ。
父ちゃんと母ちゃんはいつも酔っぱらってた。飯を食わせてもらえねえでいつもひもじかった。そのうち動けなくなったら母ちゃんが俺を外に放り出したんだ。
冬の寒い日だった。
ひもじくて、ひもじくて、寒くて、寒くて、段々と眠くなってきたときに、ふわっと抱き上げられて
「一緒に逃げよう」って聞こえた。
それが死んだおこう母ちゃんだ。隣に住んでいたおこう母ちゃんもひどい目にあってたらしくて、その日おいらが外に放り出される音を聞いてどうせ死ぬんなら、おいらと二人で逃げられるだけ逃げて二人で死のうって思ったらしい。
おこう母ちゃんの胸の中はあったかくてさ、おいら嬉しくて。死ぬってのはよくわからなかったけどこの嬉しい気持ちは絶対に忘れないようにしようって決めたんだ。
おこう母ちゃんが歩く力尽きて偶々、へたりこんだのが二之湯の薪置き場だったんだ。
そこはふんわり、ほのかに暖かかった。
それからは二之湯の親方に見つけてもらって、あとは良く覚えてないの。
おいらとおっかさんは名前を変えてこの長屋に来たんだ。
佐吉はあの日、今日からこの長屋に住むからねと九兵衛さんが連れてきた母親の手をぎゅっと握って恥ずかしそうに、でもふんわりと笑ってるれん太を思い出した。
佐吉はそのふんわりとした笑顔を思い出した。2つしか違わないというのにえらく小さいなと思ったのも思い出した。
・・・・・・食えてなかったから小さかったのか・・・・・・
「ひもじいのはいけねえよ」
どれほどのひもじさを味わったのか。
あれは、れん太の心の底からの言葉だったのだ。
そして、赤ん坊が薪置き場にいたと聞いた時、二之湯の親方が一瞬絶句したのも思い出した。薪置き場に逃げ込んだ二人を思い出したのか・・・。
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