第三話 始まりの情事

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第三話 始まりの情事

 結果的に化学で九十八点だった僕は、先生との約束通りに店に行っていいのか迷った。  しかし、自分の中で膨らんでいく感情は理性で抑えきれず、悩んだ末、店に向かった。言われた通り、色々と調べてできるだけ身体を綺麗にして。  先生の指定した店は、歓楽街の真ん中にある、高校生が絶対に足を踏み入れられない場所にあった。そのため、僕は家にあった服の中でできるだけ大人びて見えるものを選んだ。元々背が高いせいか大学生に間違われることがあったし、大丈夫と言い聞かせた。  この町が、ゲイの人達が多いところだというのは、調べて知ったことだ。そしてその真ん中にある店を指定したということは、恐らく先生も同性愛者もしくは両性愛者なのだろう。  それは僕の背中を押した要因の一つだった。少なくとも、先生は同性愛者である僕という存在を、それだけで否定したりはしないということだから。  駅から真っ直ぐに時々キャッチに声を掛けられながら、風俗店や飲み屋が並ぶ通りを歩く。更に進んでいくと男性同士が腕を組んで歩いているような場所にある、一軒のバーに辿り着いた。  男性客ばかりで、数人が僕の方を一瞥する。異様な緊張感の中どうしたらいいか分からず辺りを見回していると、唐突に肩を叩かれて身体がびくっと反応する。 「百点じゃねえからって来ねえかと思ったぜ」  振り返って、目の前に立っていた男性を見て驚く。ダークグレーの襟ぐりの広いVネックのTシャツに、タイトなダメージジーンズ、手首にはレザーブレスレットを五重に巻いている。  どう良く見ようとしても遊び人風の格好だが、間違いなく観月先生だった。 「せん――」 「馬鹿、ここでは(しゅう)って呼べ」
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