第三話 始まりの情事

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 と、先生はティッシュで軽く下半身を拭ってから、脱衣所の方に行って下着とジーパンを穿いて戻ってくる。 「お前はシャワー浴びろよ。ザーメン身体にぶっかけてるし、ケツ洗った方がいいだろ」 「は、はい……」  全くデリカシーのない、オブラートに包むということを知らない台詞に、若干盛り上がっていた気分から醒めた僕は、重い身体を起こし、ティッシュで軽く身体を拭いた。 「っ……」  立ち上がると腰に痛みが走って固まる。しかし、これから歩いて家まで帰らなければならないことを考えたら、ここで立ち止まってはいられない。  痛みを我慢しながら、シャワールームに入り、前屈みになると襲い掛かってきた更なる痛みにも耐えてレバーを操作する。  ぬるめのシャワーが心地良かった。身体を使い捨てのスポンジで洗い、ローションでぬるぬるしている後ろの気持ち悪さを取り去る。  じんじんと痛むそこは、ついさっきまで先生と繋がっていたことを示していて、気恥ずかしさと抑えきれないほどの喜びで、思わず叫んでしまいそうになった。  シャワールームから出て、足元に脱ぎ捨てられていた服に着替えて部屋を覗く。  と、先生はベッドに座って、静かに煙を燻らせていた。今まで先生が煙草を吸っている姿は見たことが無い。  しかし、それだけなら、僕は何も無く先生に喜びのまま、まるで恋人にするように抱き着いたりしたかもしれない。  けれど、先生の横顔は、いつかの放課後見た時と似た、怒りと憂いに満ちた表情で空を睨み付けていたから。  僕はただ、此処ではない何処かに想いを馳せている先生を遠くに感じながら、茫然と見詰めていた。
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